【創作大賞】「ブラッディ―ジョー 第2試合 v.s.コング内藤」【漫画原作部門】
仙台市青葉体育館内プロレス会場第1試合
ベテランプロレスラー・コング内藤が、仙台プロレスの若手・山岡ショウの水平チョップを胸で受けている。バチン、バチンという音が体育館に響き渡る。
攻め疲れたショウをコングは、もっと来い!と挑発する。
山岡(だいじょうぶか?内藤さん?!)
コングは一切、攻撃を避けない。リングの真ん中に仁王立ちしているだけだ。コングは、絶対に攻撃を避けないことを売りにしてきたレスラーだ。とにかく、受けまくる。倒されても、倒されても起き上がり、仁王立ちになる。受ける。
自分から動くのは、試合時間目いっぱいになってからだ。15分の試合なら14分30秒。10分の試合なら9分30秒。
そこまでで対戦相手が体力を使い果たすまで攻撃をしてきていたら、合格。相手の最後の1発でフォールされてやる。まだ余力を残しているようであれば、不合格。逆に、コングバスター一発でフォールする。
今日も、攻撃を受けながら、コングは前にズイズイと進んでいく。
コング内藤「ショウ!!おい、ショウ!!!お前のプロレスは!まだ、軽いんだよ!!!」
「全力出し切れてないやつには、お仕置きが必要だな」
内藤が両手で自分の胸をドンドンと叩いた。内藤の決めポーズだ。
ズイズイと前に進み、ショウを持ち上げる。だが小柄なショウを担ぎきることは出来ず、ショウは自ら軽くジャンプした。それに合わせて、内藤がショウを落とす。
ボスン。
という小さな音がマットに起こり。内藤がフォールした。
「第1試合コング内藤9分43秒コングバスターからのフォール勝ちです」というアナウンスがされると、観客からはまばらな拍手が起きた。
コングは勝ち名乗りを受けると、花道を引き揚げていき、むくりと立ち上がったショウもそれに続いた。
控室
コング控室に入ると、ショウがすぐさまドアを閉めた。コングは、そのままソファに倒れこむ。
コング「痛てええぇぇぇ。助けてくれ、、、早く冷やしてくれッ!!!!」
ショウ「大丈夫っすか?!」
ショウがアイシングをしながら、コングの脚をマッサージをする。
内藤「バカ野郎。あれでいいんだよ。前座試合でプロレスラーの頑丈さを見せるのが、今の俺にできるプロレスだ」「ああああ、いってええええええええ」
ショウ「うっす。でもコングさん、本当に大丈夫ですか」
内藤「ダメだよ。ダメ。全然、ダメだ。どこも大丈夫じゃねえよ」
ショウ「こんな身体でなんでリングに上がれるんですか?一度、しっかり治した方が、、、」
内藤「観客にとって、コングは超人なんだよ。観客前にしたらな、俺もアドレナリンが脳から噴き出して、痛みなんてこれっぽっちも感じねえよ」
会場外
足を引きずりながら歩く男がいた。電灯の光を避けるようにして暗がりを歩いている。
その男の前に、一人の男が行く手を遮るように立ちふさがった。
足の悪い男は、無言で大男を避けるように横を通り過ぎようとした。
大男「コング内藤だな」
男「、、、人違いだ」
小声でつぶやくと男は大男の横を過ぎていく。その男の腕を大男がつかむ。
男「いてえ!何すんだ、、、俺が何したっていうんだ」
大男「腕つかまれただけで、その痛がりようか。お前の身体はもう、壊れてるよ」
男「知るか、、、お前に何の関係があるんだよ」
大男「お前の痛みをなくせる」
内藤「医者か何かか?コングが病院に行くわけねえだろが。それに、試合を休むことも出来ねえ。お客さんが毎日来てるんだからな」
大男「医者じゃない。試合を休む必要もない。試合の中で治してやる。というか、試合の中でしか治せないんだよ。俺は」
内藤「試合の中で治すだと?バカか、、、!!!!、、、」
内藤(試合の中で、対戦相手を治しちまう超一流のレスラー、、、ただの都市伝説だと思っていたが、、、まさか、こいつが!?)
大男「ブラッディ・ジョーだ。ただし条件がある。治っても、1年後には必ず引退しろ。そうでなければ、いまの痛み以上の地獄が死ぬまで続く。もう一つ、この治療の報酬は3000万円だ」
内藤「噂に聞いたことがある。『一人前のレスラーは、怪我をしない。一流のレスラーは怪我をさせない。だが、怪我を治せる超一流のレスラーがいる。そいつの名前はBJ』だと、、、お前が本当にそのBJなら、払うぜ。3000万円」
大男「明日の試合は俺とだ。試合前に3000万円を用意しておけ。それとな、俺の治療は死ぬほど痛いぞ。覚悟しておけ」
内藤「リングじゃ、痛みはコングに通じねえよ」
翌日試合会場リング下(ショウ、社長レスラー、他レスラー数名)
3人が小声で話している。
ショウ「あんなのいきなりリングに上げて大丈夫っすか?」
社長レスラー「絶対にワガママ言わない内藤さんが、どうしてもっていうから。それに、自分でファイトマネー3000万円払っちまったんだとよ。いままでの貯金全部下ろして」
レスラーたち「3000万円!?」
社長レスラー「しかたねえ。それに、俺も見てみたいんだ。伝説が本当なのかを」
ショウ「伝説?!」
リング上
いつものようにコングがリング中央に陣取っている。
BJがロックアップに行く。組み合うコングとBJ。コングの全身がメキメキと音を立てている。
BJは力の入れ方を目まぐるしく変えていた。
そのたびに、コングの身体のいたるところが軋み、悲鳴を上げていった。しかし、コングは平然とした顔をしている。
BJ(リングの上じゃ、痛みを感じないのは本当のようだな。さすがだ)
BJ「ここからが地獄だぜ」
BJは、ロックアップを解くと、いきなりタイガー式スープレックスでコングを高角度で落としていった。この一撃だけで完全にグロッキーになっていることは誰の目にも明らかだった。
BJは、ふらふらになっている内藤の背後に回り込み、コブラツイストを仕掛けた。ギチギチと全身の関節と筋が捻じれ、引き伸ばされる音が聞こえてくるようだった。
内藤(!!)
これほどの痛みは、新人の頃のしごきでも、メジャー団体の外国人レスラーとの対戦でも感じたことがない、すさまじさだった。
内藤(痛みをなくすって、まさか俺を、、、殺す気なのか?!)
コブラツイストを掛けられながらも鬼の形相でBJを睨みつける内藤。
BJは、コブラツイストを解くと、今度は、卍固めに移行する。
BJがギリっと搾り上げたとたん、体の中の神経が引きちぎられ、すべての脊髄がバラバラに引き外されるような感覚が内藤を襲った。
ぐぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!
悲鳴がリングからあがった。内藤がリング上で初めて上げた悲鳴だった。誰も聞いたことのない、内藤の悲鳴だった。
何か異常なことがリングで起きていることを、観客も感じていた。
ショウ「社長!!!試合止めてください。内藤さんが!!!」
レフリーもチラチラと社長の顔を見ている。
観客「コングーーーーーがんばれーーーーーーー!!!」
観客「負けるな―、コング―」
コングコールが起きた。この10年前座しかしてこなかったコングに観客席から割れんばかりのコールが起きることなど、初めてだった。
内藤(へっ、みっともねえところ見せちまったけど、、、このコールは効くぜ!!)
内藤の全身にアドレナリンの激流が広がっていく。
BJが卍固めを解いた。観客をさらに挑発する。挑発に応えるように、観客のコングコールは大きくなっていき、コングのアドレナリンはさらに濃度を増していった。
内藤がリングの中央に、どっしりと構えなおし、BJに向かって、「かかってこい」のジェスチャーをする。
BJは、その挑発に乗るように、すさまじい攻撃を打撃を投げ技を関節技を繰り出していった。
立ったまま腕の関節が壊れるほどの角度で捻じ上げられ、引き伸ばされる。
変形四の字固めで膝関節が搾り上げられる。
時折、客席にも聞こえるほどの「ゴキッ」「バキッ」という鈍い音が響く。
内藤の全身にはすさまじい痛みが刻み込まれていったが、それをすべてアドレナリンの洪水が洗い流していっていた。
観客にもその痛みは、確実に伝わっていた。手に汗を握るもの、冷汗を額から流すもの、悲鳴をあげるもの、声援を送るもの、ただ黙ってコングを見守るもの。
観客のすべての集中力がリングに注がれていた。
コングの受けが、会場を支配している。
リング下のレスラーたちもみなコングに圧倒され、震えていた。
ショウ(これが、、、本物か、、、)
BJ「よく耐えたな。次が最後の技だよ。耐えきったら生き返るぜ」
内藤をヘッドロックで搾り上げるBJが耳元でささやいた。
ヘッドロックを解くと、BJが両手を高くつきあげ、雄たけびを上げた。そして、そのままロープに走ると、反動をつかって、コングに向かって丸太のような腕をコングの首に叩き込んだ。
コングの身体が空中で一回転して、そのままリングに落下していった。
レスラーたち(あの角度は、ヤバい!!!!!)
リング下のレスラーたちがリングをバンバン叩いて、コングを起こそうとする。
「残り時間あと30秒」
そのとたん、コングが何事もなかったかのように、ムクリと起き上がった。
コング(どうなっちまったんだ?身体が、嘘みたいに軽い)
コングがBJを一瞥する。
コング「おい、BJ、まだまだ俺は、ピンピンしてるぞ。全力出し切れてないやつには、お仕置きが必要だな」
BJは、いやいやのポーズをとるが、それを無視するように、両手で自分の胸をドンドンと叩くと、観客席からは大歓声が挙がった。
抵抗するBJの分厚く、巨大な肉体が、コングの怪力によってリングから強引に引き抜かれた。
観客の一人は、思わず両手のこぶしに力を入れている。
内藤(この巨体を俺が持ち上げてるのか?!こんなに軽々と?!)
この試合で、たった1回だけのコングからの攻撃。
コング一撃必殺のコングバスターだった。
未だかつてないほどの滞空時間を経たコングバスターは、スローモーションのようにBJの身体を落下させていった。
ドッスーーーーンという轟音とともに、BJがリングに突き刺さり、ゆっくりと倒れていった。
誰の目にも明らかな、完璧に決まったコングバスターだった。
ショウ「すげぇ、、、」
社長「あれが、コング内藤だぞ」
コングがフォールに入る。
観客が一体になり、フォールをコールする。
「ワン、ツー、スリー!!!!!」
ゴングが鳴り響く。
続く大歓声。
リング下のレスラーたちも、観客に交じって大歓声を上げていた。
内藤は再び両手で胸をドンドンと叩いて見せた。
控室
内藤「ありがとう!ありがとうございます!」
内藤がBJの手を取り、号泣している。
内藤「どこも、もうどこも痛くねえんだ。ほんとに、どこも痛くなねえんだ。社長、みんな!聞いてくれ。俺、もうどこも痛くない。また俺のレスリングが出来たんだ、3000万なんて安いもんだ!」
ショウ「奇跡、、、」
レスラー「こんなこと、、、本当にあるのか、、、、、」
BJ「分かってるな。必ず1年後に引退しろ」
内藤「わかった。約束する」
しばらく、見つめあう二人。BJは頷くと、去っていった。
翌日リング
観客もリング下のレスラーたちも目を丸くしている。あのコングが、リング上で動き回っていた。身体を自ら相手にぶつけに行き、相手の技に自ら飛び込んでいく。
客席からは、大歓声が起きている。
BJは体育館の隅から、それを見届けると、無言で体育館を後にした。
ブラッディ・ジョー。
その素性も本名も誰も知らない。
対戦相手を治してしまう超一流だといわれているこの謎のレスラーは今日もどこかのリングで奇跡を生んでいるはずだ。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?