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鉱工業生産は、2年前比ではなおマイナス圏

 本日(5月31日)、経済産業省が2021年4月の鉱工業生産の速報値を公表しました。前月に比べて2.5%上昇し、新型コロナウイルス感染拡大前の20年1月の水準を上回りました。各紙は、生産がコロナ前を回復したと報じています。長引く緊急事態宣言で国内のサービス活動の回復に遅れが見られるなか、明るい動きといえます。

 4月の鉱工業生産は前年同月(2020年4月)と比べても15.4%上昇しています。ただし、これは2020年4月に緊急事態宣言が発令され、5月にかけて生産が大きく落ち込んだ翌年であることが大きく影響しています。このように前年に特殊要因がある際に役立つのが「2年前の同月比」です。

 そこで、生産の前年同月比(青い折れ線)と2年前の同月比のグラフ(赤い折れ線)を描いてみました。2021年4月の2年前の同月比はマイナス2.6%となお水面下であり、手放しで喜べる状況ではないことがわかります。しかも、前年同月比と2年前の同月比のグラフの動きが、2020年10月からかい離しています。これは、2020年10月に消費税率が10%に引き上げられたタイミングで、駆け込み消費の反動などで生産が落ち込んだためです。

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 日経の記事には出ていない2019年以前も加えた下記のグラフを見てください。記事で2021年4月と比べられている2020年1月は、消費税率引き上げの反動減で落ち込んだ生産が立ち直りかけた時期にあたります。そもそも、景気の山は2018年10月につけており、その月の生産水準(105.6)は2021年4月を6%上回っています。コロナ前は回復したかもしれませんが、消費税率引き上げ前には回復できていないのです。

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 さらに、99.6という2021年4月の実績値が今後改定される公算も大です。まずは6月14日に予定されている確報値の公表での改定。そして、少し先の話ではありますが、来年(2022年4月)に予定されている年間補正で改定される可能性があります。

 新聞等で注目される鉱工業生産指数は季節調整値です。これは、指数の動きのうち、例えば、夏だから多い、冬だから少ないという季節性によるものを取り除き、景気の波をとらえようとしているものです。この季節性は、コロナ禍のような大きな経済変動があったときに大きく変動します。下図は、2021年2月確報時に行われた年間補正の前の生産指数(点線)と、年間補正後の生産指数(実数)を比べたものですが、年間補正が実施された2020年内の実績値が改定され、2020年秋にかけての回復が緩やかになった姿がうかがえます。

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 2021年2月確報時に行われた年間補正前は、2019年までのデータから得られる季節性を用いて2020年の生産指数の季節調整を行っていました(予定季節指数と呼ばれます)。これに対し、年間補正後は2020年までのデータを用いて季節性を抽出しなおして、2020年の生産の季節調整値を算出しています。この結果、2020年内の動きが変わったのです。

 そして、2021年の各月の生産指数は、上記の年間補正時に得られた予定季節指数を用いて季節調整値が算出されています。よって、次の年間補正時(2022年4月)に2021年の各月の生産指数の季節調整値が改定される可能性が大きいわけです。

 生産が今後も順調に回復して、消費税率引き上げ前や景気の山を越えていくのか。データの改定にも注意しつつ、注目していきたいですね。

追伸:データがどのように改定されてきたのかを知るのに役立つのがリアルタイムデータベースです。私がお手伝いしている東京財団政策研究所のリアルタイムデータベースでは、GDP統計、生産、第三次産業活動指数のリアルタイムデータがダウンロードできるようになっています。本稿もこのデータベースを用いています。リンクは下記の通りです。
https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=2983

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