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「宿泊業の売り上げは堅調」なのか?

 日経電子版で興味深い記事を発見しました。10月15日にリリースされた「私が旅行をしないワケ 日本人、国内も2023年末から減少」です。私も毎月、「宿泊旅行統計調査」(観光庁)のフォローアップを行っており、延べ宿泊者数の伸びが外国人頼みになっていることが気になっていたためです(下図)。一方、記事では宿泊業の売上高は堅調と書かれているのですが、本当なのでしょうか?「サービス産業動向調査」(総務省)などを確認してみたいと思います。


外国人を含めた宿泊者数も宿泊業売上高も伸びは鈍化傾向

 「サービス産業動向調査」(総務省)は、サービス産業の生産・雇用等の動向を把握するために毎月行われている調査です。ただ、実績値が公表されるまで時間がかかり、最新の7月は9月30日に速報が公表されました。8月分は今月末(10月31日)公表予定です。2024年7月の速報値によれば、サービス産業計の売上高は前年同月比4.0%増、大分類の産業は「教育、学習支援業」(4.5%減)を除き、増加。宿泊業が含まれる「宿泊業、飲食サービス業」も1.6%増です。
 一方、下図のように宿泊業だけを取り出すと、今年の5月あたりから伸びが縮小しています(4月:9.34%→5月:0.17%→6月:2.37%→7月:1.01%)。これは、外国人も含めた延べ宿泊者数の動きに沿っています(4月:10.1%→5月:5.0%→6月:6.3%→7月:4.1%)。すでに速報値が明らかになっている8月の延べ宿泊者数も2.7%増とさらに鈍化しています。
 外国人旅行者の延べ宿泊者数は8月も20.9%増ではあるものの、2024年初には8割前後あったのに比べると鈍化しています。また、外国人が延べ宿泊者数全体に占める割合は2023年通年で2割弱。全体を大きく押し上げるまでの力はありません。日本人旅行者が回復しないと、宿泊業売上高もいずれ頭打ちになってしまうのではないでしょうか?

宿泊料の物価指数の上昇率も鈍化傾向

 宿泊料も上昇を続けているとはいえ、伸びが鈍化しつつあります。直近の消費者物価指数の「宿泊料」は前年同月比6.8%上昇。下図をみればわかるように伸びが徐々に鈍化しています。
 消費者物価指数の宿泊料は昨年(2023年)7月まで「全国旅行支援」によって押し下げられていました(押し下げ寄与は徐々に低下していましたが)。ですので、今年の7月までの宿泊料の上昇率は実勢より過大だったのです。言い換えれば、足元の宿泊料の上昇率は実勢として伸びが鈍化していると言えます。
 この一因と考えられるのは、客室稼働率の伸び悩みではないでしょうか?2023年に比べれば改善しているものの、コロナ禍前の2019年には及びません。また、足元の8月はコロナ禍前とかなり差をつけられてしまっています(速報値なので今月末の公表値で改定される可能性はありますが)。

ホテル建設の伸び鈍化、建設費増だけが理由じゃないのでは?

 10月13日の下記の日経電子版では、ビジネスホテル大手のアパグループが今後3年間の新規出店数を直近3年と比べ4割減らすとか、共立メンテナンスがビジネスホテル「ドーミーイン」の新規開業を24年は1棟にとどめるといったことが報じられています。記事は建設費の上昇を原因にしていますが、宿泊需要の伸び悩みも背景にあるのではないでしょうか?
 主力の宿泊需要である日本人旅行客の回復のために、可処分所得を増やす政策が求められているのではないでしょうか?

#日経COMEMO #NIKKEI

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