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実質輸出が減る中で、縮小する貿易収支赤字~2023年3月の貿易統計

 4月20日、2023年3月の「貿易統計」(財務省)が公表されました。21日の日本経済新聞は、2022年度の貿易赤字が過去最大になったことに注目してその要因をまとめています。そこで、本稿では月次の動きに注目してみましょう。

2022年10月をピークに貿易赤字は縮小傾向

 月次の動向を観察するうえでは季節性を除いたデータを用いることが大事です。以下の図は、財務省が公表している通関輸出金額と通関輸入金額の季節調整値を用い、輸出-輸入を貿易収支として描いたものです。貿易収支の赤字幅は2022年10月の2.3兆円を直近のピークとして減少トレンドとなり、2023年3月には1.2兆円まで縮小しています。2022年初頭の水準まで縮小した形です。

2021年7月~2022年10月までほぼ増えなかった実質輸出

 貿易収支は2021年7月にほぼゼロとなった後、2022年10月にかけて赤字幅を拡大させました。この間、通関輸出金額は24.7%増えましたが、通関輸入金額は57.1%増と2倍以上の伸びとなりました。結果、貿易赤字が拡大したわけです。
 通関輸出入金額の変動は、数量要因(本稿では日本銀行「実質輸出入」を用います)と価格要因に分けられます。
 2021年7月から2022年10月まで実質輸出はほとんど増えてません。円安が進んだことなどによる要因(緑色)が通関輸出金額の増加を生んだのです。円安の際、輸入金額が増えることが注目されがちですが、円建ての輸出金額も増えます。同じ期間に実質輸入は11.8%も増えています。この間の貿易赤字の増加は円安や資源高の影響が強調されがちですが、輸入の量自体も増えていたのです。もちろん、緑色の部分は輸出の2倍近くありますが。
 一方、2022年10月から2023年3月までは実質輸出も実質輸入も減ってます。ただ、その減り方は実質輸出の3.6%減に対し、実質輸入が8.7%減と2倍近くとなってます。それに加えて、緑色部分の押し下げが輸入の方が大きいために、輸出金額より輸入金額が減少し、貿易赤字が減っているわけです。ただ、実質輸出が減っているのは海外経済の減速、実質輸入が減っているのは国内需要の減速が背景にある可能性があり、貿易赤字が減ったからといって手放しで喜べるものではないですね。

交易条件の悪化が貿易赤字拡大の原因だったのは2022年9月まで

 緑色の要因を確認するために、次に「企業物価指数」(日本銀行)の輸出入物価指数に注目してみましょう。2021年7月~2022年10月の間に輸出物価指数(円ベース、総平均)は21.8%上昇したのに対し、輸入物価指数(円ベース、総平均)は2倍以上の53.7%上昇しました。この差の理由は、米ドルなど契約通貨ベースの輸出入物価指数の伸びの違いに表れています。この間、契約通貨ベースの輸出物価指数は2.8%上昇したのに対し、輸入物価指数は23.4%上昇と10倍近い上昇になったのです。資源価格や輸入に頼る原材料価格の高騰が影響したと考えられます。
 こうした中、輸出物価指数を輸入物価指数で除した交易条件は悪化(数値は低下)の一途をたどりました。ただ、その動きも2022年9月を底に反転、改善に向かっています。
 
2022年10月~2023年3月の間に、輸出物価指数(円ベース、総平均)は5.3%下落しましたが、輸入物価指数(円ベース、総平均)は14%と3倍弱下落しました。契約通貨ベースでみると、輸出物価指数は0.2%上昇とほぼ横ばいなのに対し、輸入物価指数は7.3%も下落しました。まさに円安の一服と資源価格の下落のたまものです(円ドルレートの月中平均は2022年10月の147円1銭→2023年3月の133円85銭)。
 

今後は実質輸出入の動向がカギを握るか?

 円ドルレートは1ドル=150円までの急激な円安から最近は1ドル=130円前半あたりをうろうろしています。1月中旬には120円台後半まで円高に戻りましたが、その後は勢いを欠いているようにも見えます。原油価格も3月ごろに比べれば若干高めになっているようにも見えます。今後、交易条件の改善が一段と進むかどうかは微妙かもしれません。
 となると、貿易収支の動向は実質輸出入の動向、とりわけ実質輸出が再び勢いを増すかどうかにかかりそうです。頑張って欲しいですが、さて…

#日経COMEMO #NIKKEI


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