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2024年以降の指数を使ってはダメ‼~毎月勤労統計調査

ちょっと刺激的なタイトルになってしまいました。毎月のように「毎月勤労統計調査」(厚生労働省)の速報値の動向を書かせていただいているのに、「こんな変なことが起きてるんかい」と今頃気が付きました。
正確に言うと、経済分析などで「毎月勤労統計調査」の賃金、労働時間関連の指数を使う際は、2024年1月以降の値は使ってはいけないというのが結論です。
以下、その理由を説明していきたいと思います。


指数で計算した前年比と公表された前年比が合致しない‼

 下の表をご覧ください。毎月勤労統計で調査・公表されている賃金、労働時間、労働者数のそれぞれ代表的な指数などを、厚生労働省の各時点の公表資料(概況と呼ばれます)から転記したものです。
 一番上の2024年1月の速報値では、資料で公表されている前年比と、当年と前年同月の指数の割り算で算出される前年比が一致しています。ある意味、当たり前です。
 しかし、2024年1月の確報値においては賃金と労働時間の指数でズレが生じています。現金給与総額は1.5%上昇と公表されていますが、指数で算出すると3.9%上昇です。総労働時間は0.9%減と公表されていますが、指数で算出すると0.6%増と符号すら変わっています。
 現時点で最新の結果である2024年2月の速報値でも同様です。現金給与総額は1.8%上昇と公表されていますが、指数で算出すると4.1%上昇です。総労働時間は0.1%減と公表されてますが、指数で算出すると1.3%増です。
 なお、理由はわかりませんが、常用雇用指数にはそうした問題が発生していません。冒頭で賃金、労働時間関連と限定したのはそのためです。ただし、毎月勤労統計調査で最も注目されるのは賃金です。

一因は「ベンチマーク更新」

 こうしたことが起きた一因は、2024年1月の確報時に行われた「ベンチマーク更新」にあります(以下のリンクは厚生労働省の解説資料)。
 毎月勤労統計調査における賃金や労働時間は、産業・規模別の一人平均の賃金・労働時間を、その産業(規模別で)が日本全体に占める比率を用いて積み上げることで算出されています。この比率は、「経済センサス」など全企業(母集団)を対象に行う調査の結果などが用いられています。
 今回のベンチマーク更新では、「2021年経済センサスー活動調査」に基づいて推計された母集団が用いられています。更新前は「2016年経済センサスー活動調査」が用いられていました。5年経てば、産業・規模別の労働者の比率が変わっているのは無理もなく(もちろん、この間、変化を推計していますが)、結果として、日本全体の賃金、労働時間の集計結果が変わるのは当然でしょう。

https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/maikin-kaisetsu-20240408.pdf

2024年以降の前年比算出への配慮

 一方、ベンチマーク更新後の賃金、労働時間と前年同月のベンチマーク更新前のそれを単純に比較することは問題があります。なぜなら、その変化には産業・規模別の労働者の比率の違いが含まれてしまっているためです。
 そこで、今回のベンチマーク更新では、前年同月(2024年1月を算出するなら2023年1月)の賃金や労働時間について、ベンチマーク更新をした後の値を計算し、その値を用いて、2024年の各月の前年同月比を算出、公表することになっています。このこと自体は、適切な対応だと私も考えます。

「賃金、労働時間の指数の遡及改定は行わない」っておかしくないか?

 上で示した表で1月の速報、確報を見比べていただければわかるように、前年同月(2023年1月)の賃金、労働時間の指数は速報、確報で変わりありません。ベンチマーク更新による指数の遡及改定が行われていないのです。つまり、指数同士で前年同月比を算出することは、「ベンチマーク更新」前と後の比較という、やってはいけないことをしていることになります。
 本来、指数は時系列比較がしやすいように作られているものです。私は「何らかの事情で作業が遅れているのではないか」と思い、厚生労働省の担当者に問い合わせの電話を入れました。すると、「遡及改定は行わない」との回答が(汗)。担当者曰く、「指数が公表された時点の実績値なので変更の必要がない」。それっておかしくないか?

そもそも指数が何のためにあるのかわかっているのか?

 そもそも、毎月勤労統計の各公表時点での実績値は、現金給与総額の金額、総労働時間の時間数、常用雇用の人数などです。例えば、2月速報の毎月勤労統計の「概況」のトップページには以下の表が出ています。そこには指数はどこにもありません。厚生労働省の担当者が言う、「その時点の実績値」とは指数ではなく、本来はこれらの金額、時間、人数のはずなのです。私も、こうしたデータを過去に遡って修正しろとは申しません。

 一方、指数はある年を基準(現在は2020年)とし、その年の金額などを100に置き換えたものです。こうした指数は、最近注目度の高い消費者物価指数や景気判断で注目される鉱工業生産指数などがあります。そして、こうした指数も数年ごとに基準が変わりますが、異なる基準のデータを接続するといった工夫をしており、私たちは長期間の変化を断層なく観察できるようになっているのです。
 以上より、今回の厚生労働省の毎月勤労統計調査担当の対応には問題があると私は考えます。統計委員会は一体何をやっているのですかね?

(追記)対処法

 私のようなものが何を言おうと、厚生労働省の担当者は動かないでしょう。ということで、2024年内は公表された指数で算出される前年同月比と公表される実績値がずれる事態が続くと思われます。
 一方、これはデータ分析される方としては迷惑な話です。私が考える対応方法は、2023年の各月の指数の実績値に、公表される前年同月比を掛け合わせることで2024年の各月の指数を延長することです。これぐらい、厚生労働省がやってくれれば良いのですがね

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