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実質賃金上昇率のマイナスが過去最長に並んだけれども…~2024年2月の毎月勤労統計

「毎月勤労統計調査」(厚生労働省)の2024年2月分が本日(8日)公表されました。日本経済新聞夕刊は、実質賃金上昇率(▲1.3%)が23ヵ月連続のマイナス(2022年4月~2024年2月)と、リーマン・ショック前後の2007年9月~09年7月以来に並んだと報じています。
 しかし、リーマン・ショックの時期は23ヵ月中18ヵ月、名目賃金上昇率もマイナスでした。名目賃金上昇率がプラスで、物価上昇率がそれを上回るために実質賃金上昇率がマイナスになっているのとは、だいぶ事情が異なります。ただ、残念ながら、現在と似たような実質賃金上昇率がマイナスになっている時期を探すことは困難です。記事で取り上げている「事業所規模5人以上」のデータが1991年までしか遡れないためです。


事業所規模30人以上なら1971年まで遡れます

 「毎月勤労統計調査」では、記事で紹介されている「事業所規模5人以上」のほかに、「事業所規模30人以上」を集計したデータも公表されています。このデータだと1971年1月まで賃金上昇率を遡ることができます。
 ちなみに、事業所規模30人以上の就業形態計の2月の名目賃金上昇率は2.4%(PDFで入手できる概況には掲載されておらず、「最新月の結果表」を探って見つけました(汗))。事業所規模5人以上の1.8%より0.6ポイント高く、実質賃金上昇率は▲0.7%になります。また、2021年6月(0.0%)、7月(0.1%)、12月(0.2%)、2022年5月(0.2%)とわずかなプラスの時期があったため、実質賃金上昇率がマイナスであったのは2023年6月から9ヵ月連続になります。

第1次石油ショック直後は実質賃金上昇率マイナスの月は意外に少なく 

 以上のような制約はありますが、事業所規模30人以上のデータで、過去の実質賃金上昇率マイナスの時期を確認してみましょう。
 1971年以降で物価上昇率が高かった時期としてまず思いつくのは第1次石油ショック(1973年10月)です。第4次中東戦争の影響で、OPECが原油価格を一挙に引き上げたことをきっかけに”狂乱物価”とも呼ばれた高インフレ(1974年の消費者物価は2割強上昇)となりました。日本では、ニクソン・ショック以降の円高圧力に抗するために金融緩和、財政支出拡大をしていて、通貨供給量の伸びが高まっていたことも影響しました。
 しかし、それ以上に賃金が上昇したために、実質賃金上昇率がマイナスになった月は1974年1~3月、10~11月と、それほど多くありませんでした。むしろ、その後のインフレと不況、失業率上昇が同居するスタグフレーションの時期に名目賃金上昇率が鈍化し、実質賃金上昇率がマイナスになる時期が散見されました。

1990年以前の実質賃金マイナス連続記録は1980年初頭

 1990年以前で実質賃金上昇率のマイナス連続記録は1980年1月から1981年3月までの15ヵ月でした。第2次石油ショック(1978年10月)の後の時期です。下記のグラフを見るとわかるように、名目賃金上昇率がほぼ同じ伸び(5~6%)で推移する中、インフレ率が落ち着く中で実質賃金上昇率がプラス基調となったことが確認できます。日本の労使がきわめて協調的な賃金交渉を進め、生産コスト増と物価上昇というスパイラル現象が発生しなかったためと言われています。
 名目賃金上昇率が高まって実質賃金上昇率がプラスに転じていくのか、物価上昇率が落ち着くなかで実質賃金上昇率がプラスになるのか。今年の春闘では賃上げ率が高かったともいわれてますので、要注目ですね。

2月の一般労働者の所定内賃金上昇率は久々の2%超え

 最後に、2月調査の結果を確認しておきましょう。私が注目する一般労働者の所定内給与の上昇率は2.4%となりました。2%以上になるのは2023年7月以来ですが、2.4%という上昇率は1994年平均の2.3%以来の高さです。
 パートタイム労働者の時間当たりの所定内給与(時給)も4%上昇と高い伸びを維持しています。

 2月調査では冬の賞与の調査結果も公表されます(下の表)が、こちらは0.7%増と、昨年の3.2%増から失速しています。製造業の伸び鈍化(2.4%→1.9%)に比べて調査産業計が失速していることからわかるように、この主因は非製造業です。業種別にみると、医療・福祉(▲5.9%)、不動産・物品賃貸業(▲1.1%)などの減少が目立っています。ちょっと気になる結果ですね(汗)。

#日経COMEMO #NIKKEI

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