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#8 九年間の雨の日

一年のうちに何日雨が降るだろう。
その年によっても違うだろうけど、そんなに多くはなかったりするのかな。

今日は雨が降っている。明け方から降っていたらしい。ぽとぽとと屋根にぶつかる雨の音を聞きながら、毛布をかぶって眠れない夜をやり過ごした。だから本当は何時から降り始めていたか知ってるけど、知らないふりをしたい。眠れなかった夜を雨には知られたくないなって思ったから。

朝、ベッドから起きるのは辛かった。寒いことはもちろんなんだけど、今日はテストがあったから余計に起きたくなかった。いつもと変わらずスヌーズは三回くらい鳴らした気がする。それから五分くらい携帯のタイマーをかけてから起きた。足を下ろすと、冷えた床が少しだけ湿っていた。

寒さに震えながら家を出る準備をしたんだ。家を出る時には雨は止んでいた。また降り出すといけないから、傘を持って学校に向かう。電車に揺られて、学校の最寄りまで。「風をあつめて」を口ずさみながら、今日のテストへの気持ちを作りながら歩いていると、頬に一粒の雫が落ちた。それから、何粒も頬に雫があたった。雨が降ってきた。傘を持ってきてよかった。大学までの残りの道を傘を差して歩く。九年間愛用してきた相棒の傘の下は心地がいい。


大学について、傘を畳んだらひどい音がした。気づいたら骨がたった三本を残してバラバラに折れていた。よく見れば錆びたフレームの先のところがぽろっと無くなっていた。壊れたんだ。

走馬灯じゃないけど、九年間の雨の日の思い出が一気に蘇った。小学校の時の校外学習に修学旅行。あのときも雨が降っていた。2組の先生が雨男だったから、行事の日は毎回雨だった。林間合宿のウォークラリー、戦場ヶ原のハイキング。中学生の時も部活の遠征の時は雨が降っていたことが多かった。風が強く吹いても耐えてくれたし、バケツをひっくり返したような雨からも守ってくれた。雨の日の思い出はいつもこの傘と一緒だった。僕にとってはゴーイング・メリー号のような、そんなかけがえのない宝物であり仲間だったと思う。

開いた時になんで壊れなかったのか不思議なくらい、傘はボロボロだった。最後のときまで守ってくれたこの傘には感謝しかない。「ごめん」っつーなら、こっちの方だよ。


これからこの傘が居ない雨の日を思うと、少し不安だ。いや、かなり嫌だ。真っ直ぐ歩けるかもわからない。雨の日が少しだけ嫌いになってしまうかもしれない。きっと今日という雨の日を僕は忘れない。


今まで本当にありがとう。楽しかった。

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眠れない夜に

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