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天狗と河童のハーフ「てんがらもん」(鹿児島県郡山)【河童伝承フィールドワーク・資料調査】その1

異彩をはなつ河童民話

鹿児島市の北部、郡山の八重山地区に「てんがらもん」の民話がある。
八重山(やえやま)の天狗どんと、甲突川(こうつきがわ)のガラッパさんが仲良くなって、ふたりの間に生まれた男の子が「てんがらもん」と名付けられ、やんちゃではあったけれども親孝行で優しい子に育ち、両親とともに八重山と甲突池を守りつづけたそうな……というお話。地元の商工会青年部が紙芝居を作成して披露している。
(参考:https://www.youtube.com/watch?v=80MFfF86AA0 こいやま天がらもん祭り 紙芝居 2022年かごしま市商工会郡山支部 青年部)

よりにもよって大晦日、甲突池へGO

筆者は普通のOLであるが、河童がらみになると普通ではない。
2022年の最終日、今年やり残したことは何か? 甲突池への訪問だ。
鹿児島市中心部から甲突池まで車で35分(地図アプリの計算上)。実際には、1時間かかった。山間部に入ると道路脇に雪のかたまりが点在し、さらに奥まで行くと雪塊の頻度が増していく。
スタッドレスタイヤなんて持っていない。準ペーパードライバー女が独り、大晦日の午後に、何をやっているのか(夫は自宅に置いてきた)。

実をいうと、そのスリルさえも楽しんでいたけれど。
到着すると地元の案内板に「てんがらもん」のイラストを見つけて胸が高鳴った。天狗の特徴と河童の特徴を合わせ持つ、異形のなかの異形である。水木しげるの妖怪図鑑でも見たことがない。

郡山 案内板 2022年12月31日 筆者撮影

鹿児島ことば「てんがらもん」

何となく「よかにせ」「おてんばむすめ」のように、人物の雰囲気をあらわす言葉であるのは知っていた。調べると以下の通り。

意味:お利口さん。感心な子。功績をあげた人。イタズラ小僧。
由来/語源:「天からの子」説、「典雅な者」説、「手柄者」説など、諸説あります。お利口さんと、いたずら小僧の相反する意味があるのが、この言葉の面白いところです。
用例:「てんがらもん」の孫だから、お小遣いをあげなきゃねー。
鹿児島弁ネット辞典|てんがら(てんがらもん)
(https://kagoshimaben-kentei.com/jaddo/)
てんがらもん
貴方はそんな風に言われたことがありますか?素直にそのまま聞くと誉め言葉です。お利巧さんとか、感心だ、という意味で使われます
時には、ちょっとやんちゃな大人(主に男性)に向かって、皮肉めいてこういう言い方をすることがあるようです。そういう時は、決して褒めていませんので、ご注意を!
使用例:洗やめの加勢(かせ)をして、花子ちゃんはてんがらもんじゃっ!
鹿児島県さつま町(旧宮之城・鶴田・薩摩)の歴史と文化を紹介するページ
https://bunkon2019-1.jimdofree.com/さつまの文化/かごっま弁講座/
方言:てんがね
意味:おりこうな 。
方言の使い方と由来:「テンガな子ぢゃ。」(おりこうな子だ。)
「手ん柄者」という説。「天下」「無し」の説。
鹿児島の方言の由来
https://www.osumi.or.jp/sakata/hougen/yurai.htm

ここで気づくのは、「天狗×ガラッパ→てんがらもん」の民話が語源由来として出てこない点。こんなにもインパクトがあるのに。
「天からの子」説が優勢のようにも見える。

地元の新聞記事をさかのぼる

南日本新聞 1995年09月17日 朝刊 に以下内容が掲載された。
・甲突川源流の日置郡郡山町八重の甲突池で十六日、水神祭があった。
・町商工会を中心に開催しており、今年が十回目。
・八重山に伝わる天狗伝説にちなみ、商工会青年部が天狗装束を身にまとい、荘厳な雰囲気を演出。商工会と八重公民館両婦人部二十一人の「ガラッパ奉納踊り」も。カッパにふんした女性が、音楽に合わせユーモラスな踊りを披露。青年部天狗も踊りに入った。

南日本新聞 2001年11月14日 朝刊 に以下内容が掲載された。
・水神祭が、郡山町の甲突池であった地元の約百二十人が出席した。
・今年はほこらを建て、これまで池の中の松の根元に置かれていた水神と天神をおさめた。
・四日、新しいほこらの前で、商工会青年部員ふんする天狗が中心となって神事が行われた。女性らによる恒例のガラッパ踊りも奉納された。緑の衣装に身を包んでカッパにふんした女性たちがユーモラスな踊りを披露した。

……今回集めた2001年までの資料には「てんがらもん」が登場しない。あくまで天狗=青年、ガラッパ=婦人会、だけが記録されている。

現地の景観

甲突池のほこら 2022年12月31日 筆者撮影
水神と天神 2022年12月31日 筆者撮影

水神にはカップ芋焼酎2つ、天神には新スーパードライとお茶。
水神=お酒大好き なのは全国的に通ずる価値観だと思うが、こんなにも如実に。

親子のレリーフ 2022年12月31日 筆者撮影

現地の池の中に天狗・ガラッパ・てんがらもんをあしらったと思われるレリーフがあった。足元の文字は風化が激しく読めなかった。非常に悔しい。
鼻が長い右の者が天狗であるとして、左の者がガラッパ、中央がてんがらもんのはずである。
ちょっと想像していたのとは違う姿で、筆者のテンションは上がった。てんがらもんの鼻が長くないし羽も無いのだ。このレリーフの制作年が知りたいが未だにわからない。

一度、資料情報に戻る。

南日本新聞 2001年11月20日 朝刊 に以下内容が掲載された。
・十一日、八重山と八重山公園で、ハイキングや野外ライブなどがあった。
商工会青年部員らが四年前に制作した大型紙芝居「天ガラもん」を上演した。自然の大切さを訴えた創作民話である。

……紙芝居は4年前=1997年頃に青年部員らによって制作されたことが判明。また「創作民話」と表記されているのが引っかかる。古くから伝えられたものではないというニュアンスだろうか。(そうだとしても、民話のはじまりはすべて創作である。発生が比較的近年というだけ。)

南日本新聞 2003年04月18日 朝刊 に以下内容が掲載された。
・郡山町の甲突池で十三日、水神祭が開かれた。
・十八回目の今年は約百五十人が参加。
・商工会青年部がふんする天狗が神事を行い、公民館女性部が恒例のガラッパ踊りを披露した。
テングとガラッパの間に生まれたとされる「テンガラモン」に郡山保育園児十三人がふんして踊りの輪に加わった。
・祭りの後、関係者らは用意された水神鍋を囲んだ。

南日本新聞 2013年05月23日 朝刊 に以下内容が掲載された。
・十九日、郡山春まつりがあった。約千人が集まった。
・てんぐとカッパの間に生まれ、同地区に伝わる妖怪「天ガラもん」がキャラクターとして初登場。
・水神祭「甲突池まつり」には、地元住民ら約100人が参加。
・八重山の天狗が水神に祝詞をささげて繁栄を祈願、恒例のガラッパ踊りも奉納。

……2003年~飛んで2013年の資料になってしまったが、園児によるてんがらもん役ができており、ゆるキャラ的な立ち位置で天ガラもんが定着している。
また、「郡山春まつり」の集客力(1000人規模)をよそに、「水神祭」は地元民と関係者100人規模で大切にとり行われているようだ。

棚田等保全協議会かごしま>八重の棚田の水神祭り
http://kagoshima-tanada.com/topics/1777/
より

結局、てんがらもんは、いつから甲突池にいるのか?

今回の調査では明らかにできなかった。
筆者の仮説では西暦1990~2000年頃に青年会が創作したのではないか?と考えている。むろん、てんがらもんという言葉自体はもっと古くからあって、そこになぞらえたと推察する
もしそうであるならば、「或る民話が発生した時期と場所」が明確になる。その民話の発生によって、山間部に暮らす人々、自然環境との関係性がどのように変わったか(あるいは変わらずにいられたか)を知ることができる。非常に興味深い事例。

当地区の史料、青年会の記録など、まだ読むべき資料が大量にある。
更なる文献調査を行い次回報告する。

甲突池の由来 2022年12月31日 筆者撮影
甲突川の源 甲突池 案内板 2022年12月31日 筆者撮影
池の中に緑色のカッパ石 2022年12月31日 筆者撮影
棚田エリアの水路 2022年12月31日 筆者撮影

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