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映画『永遠が通り過ぎていく』に寄せて


あらゆる再生への道のりは構造が似ている。
小さな破壊を繰り返し、プロセスなら幾度となく知っていた。たとえこれが命の質を変えてしまうような悲しみでも、目だけは見えている。空気を読まずにラメ入りの、この糸を正しく辿りさえすれば、たった一瞬、叶うことがある。
それは億千光年の片想いが一度だけ、届いたような朝だった。
 
君の目は黒く、君以外のすべては最悪で眩しい。あと何度傷付いたら神様の気持ちがわかるのかしら、と言って、いつだって痛くなかったことにしたから、君の傷跡はちょうど身体と同じ形になってしまって、鏡を割って泣いたっけ。
 
それからしばらく夜が過ぎ、星も空から滑り落ち、君が妊娠しているという噂が流れて、学校にも行けなくなって、部屋中に満ちる「みんな死ね」が君の方を睨んだ夜、本当に、あと一歩のところで。君はにわかに光りだした。身体と同じ大きさで、黄金の傷が光り出す。それこそが、世界と君が同時に冒した史上最大の誤算だった。
 
君の傷はいつか光になってしまう。
どんなにずっと泣いていたいと強請っても、
単なる怪我だと言い張っても、とっくに治ったふりしても、大人ぶって分析しても、いつか全部が無駄になる。君は光になってしまう。
君がどうしても欲しかった、ほの甘い全てを手放す代わりに、黄金色の諦めの中、初めて君は光になる。世界で一番惨めでも、もうやめたいと願っても、汚れたような気になっても、台無しにしようと走っても、冷たい線路で転んでも、星がひとつも見えなくなっても、携帯電話を落としても、生まれたことが間違いでも、どこまで暗闇を走っても、どんなに独りを歩いても、撲殺されそうな光に満ちて、君だけが助かってしまう。芸術の呼ぶ声がする。ぜんぜんみんなと同じじゃない。まだ知らない愛がある。そんなのないほうがまだましなのに、初めて触れる愛がある。哀しくて寂しくて仕方がない。
 
それは、君が生まれて初めて君のことを愛してしまった明け方のこと。
過ぎ去った全てが、映画になりはじめた朝のこと。
あふれんばかりの永遠たちが、映写機の中を通り過ぎていく。
光で透かしたらばれてしまう。君が美しかったこと。

戸田真琴




映画『永遠が通り過ぎていく』
〜2022年4月21日(木) アップリンク吉祥寺にて上映中
監督・脚本・編集:戸田真琴
出演:中尾有伽 竹内ももこ 西野凪沙 白戸達也 五味未知子 イトウハルヒ ほか
劇中歌:大森靖子『M』
音楽:GOMESS AMIKO
共同プロデュース:飯田エリカ

2022年/日本/ 配給 para/カラー/60分

【追加劇場】愛知・シネマスコーレ 2022年5月28日〜6月3日


●『永遠が通り過ぎていく』パンフレット通信販売開始

目次
- 映画によせて
- 作品紹介 STORY『アリアとマリア」 
- 作品紹介 STORY『Blue Through』
- 作品紹介 STORY『M』
- 劇中歌紹介『M』
- オープニング原稿
- コラム 根本宗子
- 対談『長久允×戸田真琴』
- コラム 野村由芽・竹中万季
- キャスト座談会(イトウハルヒ , 西野凪沙 , 戸田真琴 , 飯田エリカ)
- キャスト&スタッフ紹介
- シナリオ『アリアとマリア』
- 劇中歌紹介『ダンスホール』
- 戸田真琴書き下ろし『The Moment you passed me』
- スタッフクレジット

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