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岸田総理も視察!戸田型PBLとは!?(前編)

 はじめまして。教育政策室指導主事の中村と申します。
戸田市が独自に行っている「教育行政プロ」枠で民間から採用され、PBLの推進を担当して4年目になります。今回は、私から戸田市のPBLについてお話したいと思います。
 
 以前、こちらの投稿で戸田市の教育改革の重点である「SEEPプロジェクト」を紹介させていただきました。

 このうち「P」にあたる、子供達が実生活や実社会の課題を自分事として捉え、具体的に解決する学びであるPBL(Project-Based Learning)は、SEEPプロジェクトを支える重要な要素になります。

 そこで、戸田市におけるPBLの推進について、「なぜ全校導入に至ったか」「戸田型PBLとは何か」について、前後編の2回に分けてご紹介したいと思います。

1.岸田総理や永岡文科大臣も視察した新しい学び

 そもそもPBLって何?はじめて聞いた!という方もいるかと思います。そちらは後編で詳しくお話しますが、まずは課題解決活動のイメージを持っていただくために、下記の動画を御覧ください。

 こちらは、今年1月に開催した「第7回戸田市プレゼンテーション大会」の小学校の部で金賞を受賞した子供達のプレゼンです。
 
 身近な「習字の授業後の筆洗い」を課題として捉え、「つけおき君」という解決策を考え、校内や戸田市に広げようとしたプロジェクトでした。このような課題解決活動を通して、「未来を切り拓く力」を育んでいく学びがPBLです。

 令和5年2月10日に、岸田総理や永岡文科大臣が視察にお越しいただいた際に、このプレゼンを間近で御覧いただきましたが、プレゼン内容はもとより、アドリブのきいたしっかりした受け答えにも大変感心されていた御様子でした。

 このPBLに取り組んだ子供達は、企画立案・マーケティング・開発・営業(プレゼン)などの一連のプロジェクトを小規模ながら1年間掛けて経験したことになります。

 もちろんビジネス的な要素はありませんので、そういった知識やスキルは足りていないかもしれません。ただ、身近な課題解決を通じて、「正解がないことにチャレンジするって楽しいかも」「自分でも誰かに影響を与えることができるんだ」と未来や社会に対してワクワクし、一歩踏み出す力は間違いなく育まれていると感じます。

 実際に、NPO法人カタリバの調査において、高校生に対してのものではありますが、実践型探究学習に取り組むと、「自分の将来は自分で切り開けると思った」「社会をよりよくするために、社会の問題に関与したい」という回答率が高くなると報告されています。

 この学びを小学生のうちから段階的に積み上げていくことで、正解の無い、変化の激しい社会の中でも、幸せな未来を切り拓いていける力を育んでいきたいと考えています。

 ちなみに、このプレゼン大会は、PBLの学習成果の発表が目的ではなく、あくまで課題解決を進めるために大会の観覧者からリソースやフィードバックを獲得するための手段の場となっています。

 また、アイデアを考えただけで、誰かやってください、というような他人任せのプレゼンではなく、すでに何かしら取り組んでいる中で「どうしてもここの部分で手を貸して欲しい」「広めて欲しい」といったことをプレゼンするように要件を定めています。つまり、授業で行われているPBLの一部にプレゼン大会が組み込まれているという位置づけです。
 
 なお、令和元年度以降の金賞校のプレゼン動画は、YouTubeにアップされています。「戸田市プレゼン大会」で検索いただき、是非御視聴ください。

2.PBLの導入にいたるまで

 さて、ここからは、そんなPBLを導入するに至った背景、またその効果についてもう少し詳しくお話したいと思います。
 
 教育長の戸ヶ﨑は就任以来、
児童生徒の出ていく社会を知ろうとしないのは極めて不誠実である
変化する社会の動きを教室の中に入れていって欲しい
◆これからは、AIでの代替が難しい「21世紀型スキル」「汎用的スキル」「非認知的(社会情緒的)スキル」の育成が必須
「脱・正解主義」「脱・自前主義」「脱・予定調和」
といった言葉で、「社会に開かれた教育課程」への転換を図るように学校に働きかけ続けてきました。
 
 そのような中で、PBLと出合い、まさにそれを実現するために必須の学びだと確信し、全校への導入を進めることにした、というのが導入の背景です。その後、海外や国内の先進校の視察をしたり、勉強会を開いたりして、PBL導入に向けた体制を一気に整えていきました。

PBLの先進校等の視察(海外及び国内)

3.今の日本に求められるPBL

 日本人はペーパー上で思考力を問うようなテストにおいては、様々な調査で国際的にトップクラスに位置付けられています。技術力もあり、インフラも整っており、治安も良いと世界的に評価されています。
 一見すると、様々なことにチャレンジしやすく、若者が未来に対して夢を持ちやすい環境と言えそうです。

  しかし、日本財団の『国や社会に対する18歳意識調査(2019/11/30)』では、「将来の夢を持っている」「自分で国や社会を変えられると思う」など、すべての項目が9か国中最下位となっています。「自分には何もできない」と諦めてしまっているかのようです。

 また、ユニセフの『レポートカード16(2020/9/15)』においても、日本の若者の数学・読解力分野の学力は39か国の中でトップ5ですが、社会的スキルはチリに次いで2番目に低い状況でした。語弊があるかもしれませんが、「頭はいいけれど、(社会的な)行動をしない」のが日本の子ども達の特徴のようです。
 
 なお、これはここ最近の傾向ではなく、10年前にベネッセが行った大学生の入学時点調査でも現れていました。2007年~2013年に掛けて行われたその調査では、年を追うごとに受け身になり、真面目で規律は守るけれど、自ら行動できない学生の姿が浮き彫りになりました。そんな大学生を称して、「従順なツアー客」のようだと表現されています。(ベネッセ『Between 2018年3-4月号』参照

 そういった中で、業を煮やしたのが、大手企業を中心に構成された日本最大の経済団体である日本経団体連合会でした。同社団は、『採用と大学改革への期待に関するアンケート結果(2022/1/18)』において、「主体性」や「課題設定・解決能力」を育むために、大学に一番に求める教学改革として、課題解決型のプログラム、つまりPBL等の充実を訴えています

一般社団法人日本経済団体連合会『採用と大学改革への期待に関するアンケート結果
(2022/1/18)』11頁より引用し抜粋

 また、中央教育審議会『Society5.0 時代に対応した教員養成を先導する教員養成フラッグシップ大学の在り方について (最終報告) (2020/1/23)』の3頁には、これからの教員養成で育むべき力として、「問題発見・解決型の学習活動(PBL)等を計画・実践する力」が挙げられています。つまり大学からではなく、もっと早いうちから、PBLが必要だと国は考えているということです。

  いずれにしても企業も国も、PBLに期待していることがうかがえます。

4.PBLの予想外の効果

 最後に、PBLを導入したことによる当初予想していなかった効果を2つお伝えしたいと思います。

▼コロナ禍という「ピンチ」を「チャンス」に

 一つ目は、コロナ禍において、逆にPBLの真価が発揮されたことです。というのも、コロナ禍になったことで、「学校行事がなくなってしまった」「自学自習がうまくできない」「マスクが無くなってしまった」など、子供達の目の前に様々な課題が噴出しました。いわば、これまで当たり前に出来ていたことがコロナ禍で出来なくなり、当たり前の有難さに気付くキッカケとなったとも言えます。

 こうした本気で解決したい自分事の課題に直面したことで、数十のプロジェクトが立ち上がり、自律的な活動に繋がっていきました。

 また、教職員もコロナ禍という未知の課題に直面する中で、PBLの学びの必要性を再認識し、各学校でオリジナルな実践が広がっていきました

コロナ禍で真価を発揮するPBL

▼PBLとICT・テクノロジー活用が両輪で進化

 二つ目は、PBLがICT・テクノロジーのマストアイテム化を促進していったことです。

 PBLがホンモノ化していくと、子どもたち自身から自然と「もっとこんなアプリを使いたい」「こんなものを作ってみたい」というニーズが湧き出てきます。そうなると、教師側の「教具的活用」の域を超え、子どもがICT・テクノロジーを主体的に選択する「文具的活用」がより実践されるようになります。

 活用の詳細は、こちらの記事内にある「ICT×PBLの可能性」のスライドや「Creating Your Future @ STEAM Lab」のYouTube動画を御覧いただければと思いますが、本市におけるGIGAスクール構想やSTEAM教育とPBLは、間違いなく両輪で進化しており、相乗効果を発揮しています。

5.後編に向けて

 さて、前編では、PBLがいかに今の日本に必要かといったことや、その効果等についてお伝えしてきました。
 
 いまや様々な自治体がPBLの導入をはじめており、本市への視察のご要望も多数いただいています。そこで、後編では、戸田型PBLの考え方や基本的なデザインの仕方を記事にしたいと思います。

 少し応用的な内容になりますが、是非後編も御覧いただければ幸いです!

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