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生産性改善の秘訣に迫る!株式会社リクルートのTOCプラクティス -座談会編-

600名組織(全36ユニット)の52%に「2 Tier CCPM」を適用
生産性改善2040
準備、運用装着、定量効果測定まで平均24カ月

※木下さんのご発表資料は、こちらからご覧いただけます。

木下惠太氏の略歴
2009年 郵便事業株式会社(現日本郵便)入社
    •経営企画部で全社BPR/システム導入案件に従事
2012年 Cambridge Technology Partners 入社
2017年 リクルートテクノロジーズ 入社
    •全社セキュリティ強化PJや経理部門業務効率化PJに参画
    •2019年に社内ICTインフラ部門に着任、2020年~現任

まえがき
5月23日(金)に開催しましたTOCPA Japan主催のオンラインイベント「生産性改善の秘訣に迫る!株式会社リクルートのTOC」では、同社ICT統括室の木下惠太さんにご登壇いただき、TOCプラクティスについてお話頂きました。イベントの中で一般参加者からいただいたご質問につきまして、後日木下さんから回答メッセージを頂戴しましたので、ここでシェアさせていただきます。また、石光部長をはじめ、2 Tier CCPM導入を牽引してこられた梶川さん、三好さん、島田さん、加瀬さんからいただいた生の声もご紹介します。

<一般参加者からのご質問に対するご回答>

『「タスクに仕事を割り当てる」に切り替えようとしたとき、どんな障害(抵抗)が起こり、どのように克服されましたか?』

木下惠太さん

木下さん:そうですね。この理論を適用することで、「実際に効果が出るのか」と疑問視する声はありました。もちろん、事前に資料を作ってロジックを説明することで理解が得られた部分もありますが、「まずはやってみよう」ということで乗り越えていった部分が多かったように思いますね。実際にやってみることによって「今までよりは、実は楽になった。」あるいは、「システマチックに仕事ができるようになった」というポジティブなフィードバックをくれる方が多かったです。「従来のやり方を変えるのが絶対に嫌だ」というような抵抗はほとんどありませんでした。

『ボトルネックが、担当ではなく、マネージャーやリーダーだと分かったのは、どのタイミングでしたか?スクール受講後とか?それが分かった時の皆さんの反応はいかがでしたか?』

木下さん:ボトルネックが「マネージャー」というのは、研修を受講する前から想像がついていました。これは、我々の組織においては、複数プロジェクトが並走し、そのリーダーポジションが、同時期に一人にアサインされるなど、マネージャー層が日常的にマルチタスク状態になりやすい環境のためです。今回のTOC理論で「マネージャーのボトルネックを解消する」と聞いた時、「あぁ、まさに我々に起きていることだ」と感じました。

『「人に仕事を割り当てるから、仕事に人を割り当てる」という考え方の切り替えについては、実際にやられてみてどう思われましたか?「〇〇タスクは、Aさんが得意だから」から「〇〇タスクを最短で終わらせるにはどうするか?」という聞き方はメンバーに響きそうですね。』

木下さん:メンバーからすると、たくさんのタスクを同時に抱えるよりも、「今何をやるべきかが明確になる。一つに集中できる。」という意味で、メリットが多いと考えています。

TOCPA Japanからの質問に対するご回答>

『最初に石光さんにお伺いしたいと思いますが、TOCPA Japanのプログラムを受講されたきっかけを教えていただけますか。』

石光直樹さん

石光さん:コロナ禍において、社内ICT部門としては色々とやることが増えました。大変忙しい状況に陥っていましたから、マネジメントのやり方を変えた方が良いのではないかと薄々感じていたところに、ちょうど社内でTOCPA Japanのプログラムを受講した人々から話を聞いたのです。TOCについては書籍を読んだこともあって、何か良いヒントになればと思い、私だけではなく、私の上長やマネジメントに携わるメンバーを中心に受講させていただきました。

『「モジュール1:制約を軸にしたマネジメント」、その後に「モジュール3:プロジェクトマネジメント」を受講された時のご感想を教えてください。』

石光さん:講義にはシミュレーションゲームなども組み込まれていて、このやり方を活用すれば効果的なマネジメントが出来るのではないかというイメージが持てました。また、組織全体へ適用することによって、得られる効果も大きくなると思いましたね。研修を通じて、マルチプロジェクト環境に適用するための「2 Tier CCPM」というアプローチを知り、我々の環境が、まさに多くのプロジェクトが同時進行するマルチプロジェクト環境であったことから、そこのマネジメントを変えられるのであれば、是非「2 Tier CCPM」を適用してみたいと考えました。研修プログラムは非常によくできていましたし、我々の参加メンバーも意欲的に参加し、「どうすれば理論を実践に活用していけるのか」ということについて、研修の中でも活発な議論を重ねることができました。そこで運用イメージを持てたことが、その後の導入をスムーズに進められた大きな要因だったのではないかと感じています。

『研修を受講された直後の20217月頃から、いくつかのグループで先行的に2 Tier CCPMを試行されましたが、当初の期待と試行後のご感想などを教えていただけますか。』

石光さん:繰り返しになりますが、コロナ禍でやるべきことが増え、社内のICT環境を大きく変えていかなければならないという状況にあって、それに対応するための特別なメソドロジーもなく皆が忙しくなっていたところに、効率的、効果的に複数のプロジェクトを推進できるという方法論をTOCから学びました。今、色々とありながらも、なんとかたくさんのプロジェクトを推進できているのは、まさに研修で学んだ内容や、2 Tier CCPMという方法論があるからだと思っています。TOCは、今や我々のマネジメントの中心に位置づけられているといっても良いと思いますね。

TOC導入後に成果が現れるまでの期間については、どのように評価されていますか。』

石光さん:研修を受けた後、組織内に新しいやり方が定着するまでには、そこそこ時間がかかるのではないかと想像していました。しかしながら、もともと社内メンバーの問題意識が高かったこともあり、理論の吸収やその実践については非常に積極的に取り組んでくれました。その結果、私の想定よりもはるかに短い時間で成果が出ました。小さくても良いので成果が出ると、みんな乗ってくるのですよね。それが他のチームへの広がりにも繋がっていったように思いますし、非常に満足させていただいています。

『御社の皆さんは、学習された理論をご自身の言葉に置き換えて説明できるレベルまで深く理解されていましたし、またTOC導入チームのメンバーから、ほとんどと言って良いほど拒絶反応や抵抗が見られなかったというのが非常に印象的でした。』

石光さん:そうですね。みんなが「今のままではやばいな。」という課題意識を持っていましたから、そこにフィットした取り組みだったのかなと感じています。

『それでは、各グループのリーダー陣にお話を伺いたいと思います。梶川さん、2 Tier CCPMの導入検証フェーズから関わっていただき、マインドセット、計画段階から戸惑われたこともあったかと思いますが、率直なご感想をお聞かせいただけますか。』

梶川汐里さん

梶川さん:はい、私は社内で使っているPCの管理を担当しておりました。協力会社様4名とリーダーの私を含めて計5名という小規模なチームですが、ちょうど端末管理サーバの移行を控えていましたので、そこでTOC理論を試行してみることになりました。移行計画は既に立案済みだったのですが、TOC導入前に、もともと私がどのようなスケジュールを引いていたのかを最初に紹介させてください。
この案件は過去に類似案件がありましたので、当初は、その時の工程期間を参考にして計画を組んでいました。例えば、結合試験でNGが出る確率が高かったので、そこは1か月くらいのバッファを積んでおこうなど、工程ごとにバッファを組み込んで計画していたのです。また、いつまでにサーバ移行を完了しなければならないというゴールから逆算して計画を引いていました。このように、工程ごとにバッファを積んだり、ゴールから逆算したりということで、スケジュールそのものが間延びしている状態からスタートしようとしていました。そこで、TOCの考え方を踏まえたスケジュールに組みなおすことにしました。

『メンバーの皆さんの反応は如何でしたか。』

梶川さん:TOC導入当初、もちろん全く抵抗がなかったわけではありません(笑)。新たなやり方としては、メンバー全員のタスク状況を日次で把握しながら進めていくということでしたので、「もっと稼働が取られるのではないか」という不安の声があったのも事実です。ただ、結果的には実際にやってみると効率が良く、TOCの考え方を適用したサーバ移行プロジェクトも、18営業日ほど期間短縮することができました。

『一番の成功要因は何だったと思われますか。』

梶川さん:うまく行った要因としては、やはり計画の見直しが一番大きかったと思います。各工程でバッファを積まずに最短期間にチャレンジしたこと、そして「タスクに人を割り当てる」という考え方に切り替えたこと。例えば、「単体試験はAさん」ということで、いつも特定の人をアサインするのではなく、「単体試験を最短で終わらせるために何人投入できるか」という考え方に切り替えて、Aさんから他のメンバーにスキトラ(必要スキルの移行)をお願いしました。全員で単体試験を進められるようにした結果、期間短縮を実現することができました。

『梶川さん、ありがとうございます。それでは次に、三好さんに伺いたいと思います。三好さんが担当されるチームは、ショートワーク主体(業務全体の約70%)の環境でしたが、そういった環境でも効果が出たんでしょうか。』

三好崇智さん

三好さん:はい、我々のチームは定常業務とプロジェクト対応に加えて、他部署から入ってくる改善依頼や相談など、数日から数週間単位のショートワークがかなり多く発生しています。計画されたプロジェクトワーク側への影響を抑えながら、日々発生するショートワークにどう対処していくかという課題を抱えていました。
プロジェクトワークとショートワーク双方のタスクの調整にも苦労していましたし、また要員の負荷状況なども見えていなかったので、その調整に時間を取られていました。そこで、これらの問題を解決出来たらよいなあということで、今回のTOCの取り組みに乗らせていただきました。

『新しい考え方を導入する際に心配されたことなどはありましたか。』

三好さん:はい、梶川さんのところでも話がありましたように、当初はかえって負荷が上がってしまうのではないかと心配していました。また、リソースを集中してタスクを最短期間で終わらせるという点についても、「本当にそんなにうまく行くのかな。」と懐疑的な気持ちがありましたが、まずはやってみようということでスタートしました。

『三好さんのチームでの成果と、その要因を教えていただけますか。』

三好さん:我々は、要員のスキル整理、メンバーからリーダーまで全員が担当するタスクの可視化、そして日次の状況確認を行うための会を設けて、そこで「リーダーの判断待ちが発生することを防止するための取り組み」を行いました。なるべく多くのショートワークを捌けるようにというところを目的に取り組んだわけですが、定常業務やプロジェクトワークに悪影響を与えることなく、週1~2件程度発生する大小さまざまなショートワークについても期日内に対応できるようになりました。この要因としては、やはりコミュニケーション頻度を増やしたことで、メンバーが「リーダーの判断待ちや確認待ち」になってしまう状態をなるべく減らせたこと、そしてタスクへのリソース集中状況が可視化されたことで、優先度の判定がやりやすくなったことなどが挙げられると思っています。この感触が得られたことで、最初は戸惑いがあったものの、その後はうまく導入することができました。

『三好さん、ありがとうございます。それでは次に、島田さんにお願いしたいと思います。島田さんは約35名のチームをご担当されていると思いますが、運用面で工夫されたことなどをお話いただけますか。』

島田翔さん

島田さん:はい、私が担当する35名程度のチームでは、社内ネットワークの運用や構築を行っています。全国に多くの拠点を抱えているため、日々の運用では、瞬発力を求められる障害対応やユーザ対応が発生するのですが、そういった「ショートワーク」と、ネットワークの性能向上や拡張を行うエンハンス系の「プロジェクトワーク」をやるメンバーが混在するチームのマネジメントを担当しています。

『今回の施策のポイントは何だったと思いますか。』

島田さん:「リソースを集中してプロジェクトワークを開始したら、一旦アサインされた人はそれしかやらない」というのが今回の施策のポイントだと思っています。つまりプロジェクトワークに入っている人が、障害発生の度にショートワーク側に回ってしまうと、施策自体が根底から覆ってしまうので、「リソースの分離」に取り組むことにしました。

『なるほど。具体的には、どんなやり方をされたのでしょうか。』

島田さん:従来は、1カ月単位の当番制を敷いて、トラブル対応・問い合わせ対応する人を割り当てていたのですが、2週間先の1週間分の当番を毎週通知するように変更することで、プロジェクトワークにアサインできるリソースにフレキシビリティを持たせることにしました。反発はなかったものの、メンバーからすると運用が変わりますので、変更理由やその効果については、できるだけ丁寧に事前説明を行って理解を得るよう努めました。

『運用段階でのメンバーの皆さんの反応は如何でしたか。』

島田さん:メンバーからの抵抗については、やはり割り当てられるメンバーのやることがコロコロ変わるというところで戸惑いの声が上がることがありました。例えば、昨日までは無線LANの案件をやっていた人が、今日はサーバのロードバランサ―の仕事をするといったことが現実に発生します。もちろん、ある業務が得意な人がいれば、得意ではない人も存在する訳ですが、得意ではない人を得意ではないタスクに割り当てなければならないケースでは、メンバーから戸惑いの声が上がったのは事実です。ですから、戸惑いを感じたメンバーには、都度丁寧に説明してフォローするよう細心の注意を払いました。メンバー全員にアンケート調査も実施したのですが、総じてネガティブな反応は少なかったように思いますし、順調に効果も出ている状況です。

『島田さん、ありがとうございます。それでは最後に、加瀬さんに伺います。加瀬さんがリーダーとして担当されるチームのマネジメントについて、導入前後の変化を教えていただけますか。』

加瀬駿介さん

加瀬さん:私は、自社運用の仮想基盤を担当しているのですが、恥ずかしながら、プロジェクト推進のための体系的な方法論は持ち合わせていませんでした。そこから始まっているため、TOC導入による効果に対して期待感がありました。また一方では、初物なのでうまく運用定着できるだろうかという思いもありました。

『運用定着にむけて意識されたことはありますか。』

加瀬さん:はい、導入時のハードルとしては、やはりTOCは初めてでしたので、「人に仕事を割り当てるのではなく、仕事に人を割り当てる」という考え方への転換や、そのメリットをうまくメンバーに伝えきれるだろうかという不安を持っていました。また、強引なトップダウンになりかねないという懸念もありましたので、推進チームが予め用意してくれた資料を拝借したり、自分なりに作成したソリューション導入の背景や概要資料などを使いながら、メンバーに対して丁寧に説明を行っていきました。事前説明に時間をかけたことで、メンバーが「一旦吞み込んでしまえば一気に進めていける」といった状況を作り出すことができ、結果として導入時のハードルを乗り越えていくことができました。

『リーダーの視点から、どのような点にメリットを感じられましたか。』

加瀬さん:やってみて感じたことですが、急な差し込み業務があってスケジュール上のタスクの優先順位を再検討しなければならないようなケースで、「進行中タスクを完了させるべきか、一旦止めざるを得ないのか」といった判断を即座に行えるようになるなど、マルチプロジェクト環境におけるタスク推進が非常にやりやすくなりました。
私のチームでは、今年4月からプロジェクト化するレベルの大きな案件が複数並走しているのですが、今回習得したTOCの考え方を活用することで、限られた人的リソースでありながらも、リスクを抑えながらプロジェクトの目標をしっかり達成していけるよう取り組んでいこうと思っています。

『加瀬さん、ありがとうございました。それでは最後に、マルチタスキングが解消されたかどうかという点で、皆さんが実感されてところを教えていただけませんか。』

梶川さん:私自身は、先ほどご紹介した案件以外にも、いくつかの案件を兼務している状態ですので、「マルチタスキングが解消された」というところまでの実感はまだありません。ただ、案件の中で私自身が登場するタスクについては、集中的に対応できるようになってきたと感じています。

三好さん:ショートワークはどんどんこなせるようになってきましたが、まだまだプロジェクトワークの方でもやりようがあるかなと思っています。また、運用ツールも含めて、他チームの状況なども聞きながら、もっとスマートにやれるようにしていければと思っています。

島田さん:リクルート内に、今回取り入れた考え方がもっと広がっていくと良いなあと感じています。私自身がリソース集中の中に入った訳ではないため、複数業務を抱えている状況はあまり変わっていませんが、私がマネジメントしている人たちについては、少しずつマルチタスキングが解消されていますので、これを継続していきたいと思っています。

加瀬さん:ある時期に複数案件が並走しまうケースが出てくるのは止むを得ないと思っていますが、そういった状況をうまくマネジメントするための考え方として、今後も活用していきたいと考えています。


※木下さんのご発表資料は、こちらからご覧いただけます。
あとがき
今回、木下さんが発表された資料の中に、リソース集中プランによって「タスク並行度(WIP: Work In Progress)が下がり、リーダー、有識者の負荷が低減」というご説明がありましたが、日々お忙しいリーダーや有識者の皆様には、これを是非体感していただけるような運用を目指していただきたいと心から願っております。リクルートの皆様との会話の中では、既に組織体制の見直し(統廃合)や、よりダイナミックなマネジメントの在り方に関する議論が始まっていました。また2 Tier CCPMを大規模プロジェクトに適用し、より大きな成果を狙ってはどうかといったご意見も伺っています。大変プロアクティブで、スピード感とチャレンジ精神に溢れる方々が大勢おられる会社である印象を受けましたので、今後改めて、皆さんが実践を通じて得られた貴重な知見をシェアしていただく機会があれば誠に幸いです。
皆さん、今回はありがとうございました。この場をお借りしてお礼申し上げます。


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