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実りの秋に精進料理修行〜暮らしをととのえるお寺のおはなし〜

秋は収穫の季節。
各地から届く旬の食材が店頭に並ぶと、豊かな恵みに心おどります。道元禅師は、坐禅やお経を読むことと同じく、食事を作ることは大切な修行のひとつと考えました。精進料理は皆様もよくご存知のことでしょう。食材だけにこだわるのは、身体のためのものです。一方、修行としての食事は、こころのためのもの。そこで、食欲の秋にぜひお伝えしたい「五観の偈(げ) 」というお唱えがあります。 

五観の偈
一 計功多少 量彼来処
二 忖己德行 全缺應供
三 防心離過 貪等為宗
四 正事良薬 為療形枯
五 為成道故 今受此食

〈 意 味 〉
 これから頂く食事が、ここに整うまでの
いきさつ、なされた労力を思います
 この食事を頂くに値するのか、
私は自らの行いを振り返り、省みます
 この食事を頂くことで、私は貪りなどの
誤った行いを離れ、心を正しく保ちます
 食とはまさに良薬。
身体を養い健康を得るためのもの
 御仏の説かれた道を成し遂げるために、
今この食事をいただきます

僧侶が食前に唱えるもので、食事への感謝(一)、反省(二)の言葉に始まり、自らの修行(三)と食する目的(四)を見つめ直し、仏の道の成就を誓願(五)するまでが要約されています。

この教えは僧侶のみならず食事をいただくすべての人が大切にしたい心構えです。いちど、この教えを心に留めながら精進料理づくりをご家庭で試してみてはいかがでしょうか。

八百屋さんで野菜の産地を見ながら、どこから来たものなのか、住まいの近くで採れる野菜は何があるのかと気にし始めると、自分を取り巻く環境がわかり、季節の変化を知るようになります。そして料理中は、皮や外葉も余すところなく美味しく活かしきることを意識して。手の込んだレシピである必要はありません。身近な野菜だけで料理すれば良いのです。

たとえば夏の名残りのトマトでパスタソースを。そこに秋の走りの野菜を組合わせたサラダを添えれば立派な精進料理です。料理する人も食べる人も、目前の一皿を五観の偈のこころと共にいただけば、日々の食事も尊い修行と言えましょう。

『萬亀』No.143(2023年9月号)より


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