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Selectionと戦った10,000時間:【その2】Amazonってどんな売り場を目指しているの?

サマリー

今回の記事では、Selectionには4つのフェーズがあり、①獲得するフェーズ、②売れる土俵に乗せる、③更に売りを伸ばす、④儲かる売り方を工夫すると定義。今回は①獲得するフェーズの説明として、Amazon消費財事業部のSelectionの目的である「カスタマーの日用消費財購入のGo to storeとなる」を達成するために、「重要な競合に対して徹底的に同質化をとる」というActionを打っていることを説明。

前置き

これから数回に渡ってSelectionに関して書いていくつもりだが、その前に一言前置きをしておきたい。

まず、ここで書くことは巷にあふれるAmazonの内情について書かれた本や記事のどこにも書いていないはずだ。
なぜかというと、タイトルにあるように、僕自身が10,000時間悩み、試して、ときに涙しながら(いや、嘘だ。何度もうまくいかずに泣いた。)言語化し、バイヤーやリーダーシップのメンバーに納得してもらった上で実行した考え方で、これまでここまできちんと記したことがなかったからだ。

また、これからここに書くことをそのままActionベースでどれかを実行すれば売上が伸びるのかというと、恐らく難しい。もしくは一時的な売上増に一喜一憂するだけだと思う。

大事なことは、前回の投稿の最後に書いた

「どのカテゴリーで、どのようにSelectionを増やしていき、どのような売り場をカスタマーに提供するのか」

これをしっかりと定義し、「どのような売場をカスタマーに提供するのか」というWhatから逆算する考え方に常に立ち返ることだからだ。

そして、かなり私情が入って恐縮だが、今回のテーマは今働いている10Xのパートナーに該当する日曜消費財やネットスーパーを提供している小売事業者がメインオーディエンスとして書いている。

ただ、これを書き始める前は、e-commerceプレーヤーしか参考にならない記事なのかなとも思ったが、この考え方にちゃんと立ち返って自分たちのSelectionに関してどのように取り組めているのかを見直してみると、業界問わず気付きがあると思う。

最後に念の為だが、これから伝える内容にAmazonのConfidentialな情報は一切含まれていない。Web上にOpenになっている情報や、かなりオブラートに包んだ表現や、僕自身の考えに基づくものだと断っておく。

Selectionにおけるフェーズ

改めて具体的にどのようなことに取り組んだのかを整理してみると、Selectionには4つのフェーズがあると考えている。

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当たり前だが、Selectionは獲得するだけではお客さんには買ってもらえず、ちゃんと綺麗に店頭に並べ、魅力的な値段にし、欠品しないようにし、買ってもらうその瞬間までのケアも同等に重要だった。

もうここまでくるとSelection大臣じゃなくTopline大臣じゃん(この後の連載にも書くが、最終的にはSelection大臣はTopline大臣とBottom Line大臣まで兼ねるのだけれど)というツッコミは方々からあったが、お給金をもらってSelectionのことばかり考えさせてもらっていた身分な故、言われたことはちゃんとやらないといけない。

さて、今回の本題の"①獲得するフェーズ"に関して書き始めようと思う。

どのような売場をカスタマーに提供するのか?

「どのような売り場をカスタマーに提供するのか」ということを考える際に重要なことは、「カスタマーに自社の売り場をどのように捉えてもらいたいか」、というところから考える必要がある。

消費財事業部での「どのような売り場にしたいのか」に対する当時の回答は

「カスタマーの日用消費財購入の際のGo-to Storeにする」

だったと記憶している(ちょっと表現は記憶が曖昧)。

日本におけるEC化率はまだまだ低く、2021年の経産省のデータでもBtoCの全物販のEC化率は8.08%と出ている。中でも食品は3.31%とまだまだ低い。コロナで在宅需要が増えた後の世界でもまだこの状態だ。

我々が努力していたのは、カスタマーのオフライン(ドラッグストアやスーパーなど)での購入をいかにAmazonでの購入に促してEC化率を上げるかということや、如何にAmazon消費財事業部のオンラインの競合からカスタマーの需要を獲得するかということ。

いわゆるカスタマーのShare of Walletを如何に獲得するかということだった。

これを前提に、Selection大臣として担保しなければならないこととしては、

「我々にとってRelevantな競合のSelectionをベンチマークし、SelectionのParityをとる

ということった。

この考えはAmazonにおいてとても重要で、僕が入社するずっと前から存在している。

少し用語の説明をしようと思う。

まず、Relevantな競合とあるが、Relevantを直訳すると”関連する”だが、言外の意を説明すると「カスタマーが今欲しいとしているものを買う際に、頭に浮かべるであろうお店」という意味が含まれている。
例えばセブンイレブンならファミマやローソン。伊勢丹なら高島屋。と言ったところだろうか。
Amazonにも各部門毎に絶対に負けてはならない競合が複数設定されている。(誰が競合だったかというのは残念ながらここで書いたらAmazonに怒られそうなのでやめておく)

次にSelectionのParityをとるとあるが、Parityを直訳すると”同等である”と出るが、これは早い話”Selectionの同質化”だ。
競合が提供しているものは、絶対にうちも提供するということになる。

つまり、Amazonの各部門が競合だと認める対象に対して、徹底的にSelectionの同質化を実現し、少なくとも負けないようにする、ということが根底の考え方にある。

ちなみに、今回の記事では触れないが、Selectionだけでなく、Flywheelに含まれるPricingやConvenience(配送体験)においても同じ考え方が徹底されていて、仕組み化されている。

そして、どの企業でも仕組み化という言葉は使われていると思うが、この仕組み化をきちんと言語化してみると、なかなか難しい。少なくとも入社前の僕は”自動化”というくらいの薄っぺらい回答(というか言い換え)しかできなかった。
Amazonにおける仕組み化の定義として、

「ビジネスのサイズがスケールしたとしてもコストは一定に維持できるような作業設計」

ということを仕組み化と呼んでいるが、Amazonの凄いところは、この仕組み化とスピードを両方追い求めている。

そして、仕組み化をしようとすると、精度にこだわってついつい時間を投下してしまうしかし、100%の精度が実現できる仕組みは非現実的で、とりあえず最速で70%くらいの精度のものを作り上げて、走り始めようぜ。というのがAmazonにおけるマインドセットである。(これがAmazonのOLPの一つの”Bias for Action”である)

Relevantな競合とのSelectionの同質化が全て仕組みで成り立っていると聞いたときは驚愕した。この裏側がどうなっているかは記事内では割愛するが、今回の投稿で言いたいことは、「カスタマーの日用消費財購入の際のGo-to Storeにする」というWhatをまず明確にしてからHowである「我々にとってRelevantな競合のSelectionをベンチマークし、SelectionのParityをとる」によってSelectionを拡大していくのである。

バイヤーはこの仕組みではじき出される未獲得ブランドや未獲得SKUをベンダーやメーカーと交渉し、獲得してくるのだ。

この際に、Relevantな競合の網羅性がしっかりと納得感があることが重要になってくる。

少々長くなってしまったので、この部分に関しては次の記事で説明しようと思う。

おわりに

今回は、Selection戦略のフェーズ理論を紹介し、まずは①獲得するフェーズに関して書き始めた。

AmazonにおけるSelectionの根本的な考え方は、「カスタマーの日用消費財購入のGo to storeとなる」という目的を達成するために、「重要な競合に対して徹底的に同質化をとる」ということだと説明した。

次回は①獲得するフェーズにおけるRelevantな競合の納得感の担保に関して書いてみようと思う。

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