新作落語台本「西暦2020年のマスコットキャラ」

 いつなんどきなにが起こるか分からない西暦2020年。安倍総理の突然の辞任で、オリンピック・パラリンピックのマスコットキャラクターたちも思わぬ窮地に立たされておりました。

ミライトワ(以下、ミラ)「まいったねぇソメイティ。ただでさえ開催できるのか微妙だったのに」

ソメイティ(以下、ソメ)「よわったねぇミライトワ。どう考えても開催ないよこれ」

ミラ「ないね、もう絶対ない。なんたってレガシーだかヒガシーだか息巻いて一番やりたがってた人がいなくなっちゃったんだから」

ソメ「僕たちお払い箱だね……どうしようか」

ミラ「(腕を組んで)一応あれこれ考えたんだけど、結局どこかの地方自治体のゆるキャラに再就職できれば御の字なんじゃないかな」

ソメ「となると、(おでこを指差して)これどうにかしないとね」

ミラ「つぶしが効かないよねぇこのシンボルマーク。思いっきりアルファベットで『TOKYO』って書いてあるし。誰が考えたんだか」

ソメ「いっそ『肉』とか『米』ってマークならキン肉マンに出られたのに」

ミラ「うーん、そのマークの人はすでにキン肉マン内にいるからなぁ」

ソメ「じゃあ『オリンピックマン』と『パラリンピックマン』の超人コンビということにしたらどうかな?」

ミラ「ソメイティ、ちゃんと現実を直視しよう。おいらたち、あんな死んだり生き返ったりするむちゃくちゃなプロレスできないよ」

ソメ「そうか、そうだよね……僕たちはこのおでこのマークを消して、どこかの小さな町か村のゆるキャラとしてつつましくひっそり生きていくしかないんだよね……せめて首都圏がいいなぁ……」

ミラ「そこで問題です。このマークどうしたら消えるの?」

ソメ「(クイズ番組の早押し回答のように見台を叩いて)ピンポン! バターを塗ってこする!」

ミラ「あのねソメイティ、昭和のエロ本じゃないんだから」

ソメ「じゃ普通に消しゴムでこすったらどうかな(おでこを消しゴムでこする)。だめだ全然変化なし。そもそもこれ素材なんなの? 印刷? シール?」

ミラ「分からない。分からないからいろいろ試すしかない。中性洗剤で洗ってみよう。チャレンジジョイ! (おでこをスポンジでこする)……消えないなぁ」

ソメ「こうなったら強力なやつでいこう。らくがき落としでお馴染みの無水エタノールだ! (おでこにピチャピチャつけてこする)どう? 薄くなった?」

ミラ「あっ! 薄くなった薄くなった! 消えるよこれ! やったやった! ……でも、あれ? おかしいなぁ、他の部分は全部消えたのに『2020』の文字だけ少しも消えないぞ。どうなってるんだ?」

ソメ「おでこに2020て、これじゃ超人2020年マンだよミライトワ。来年になったらバカみたいだよ」

ミラ「うーん、どうもおいらたちだけじゃ、らちが明きそうにないなぁ。こういうときは長屋のご隠居に相談しよう」

ソメ「えっ? 僕たち長屋に住んでたの?」

ミラ「ソメイティ、これは落語だから、西暦2020年でも長屋に住んでるし、困ってもググったりせずご隠居に相談しにいくんだよ。では場面転換です!(小拍子を一回打ち鳴らす)」

ミラ「というわけなんですよご隠居。ちょっと見てもらえませんか(おでこを突き出す)」

ご隠居(以下、隠居)「どれどれ、おおこれは、なにやらただならぬ妖気がただよっておるなぁ」

ソメ「へぇー、ご隠居そんなこと分かるの?」

隠居「わしは陰陽師3級の資格を持っとるからのう。(手をかざして)どうやら生霊じゃぞこれは」

ミラ「うえーマジですか。怖い怖い怖い」

隠居「何者かの、オリンピックとパラリンピックへの強い情念が、2020の文字に生霊となって取り憑いておるのじゃ。だから普通の方法では消せん」

ソメ「どうすれば消えるの?」

隠居「生霊を倒せば文字も消えるじゃろう。どれ、文字から生霊を呼び出してやろうかの。(両手で印を結んで)急急如律令(きゅうきゅうにょりつりょう)急急如律令、なんじこの隠居の前に姿を見せよ、エロイムエッサイムエロイムエッサイム、我は求め訴えたり!」

(効果音:ヒュードロドロドロ)

ミラ「あっ! 姿が浮かんできた! うわー安倍ちゃんだ! 安倍ちゃんが取り憑いてたんだ!」

ソメ「くっそー! 執念深くレガシーだかヒガシーだか息巻いてただけはあるなぁ! ご隠居、早く退治しちゃってください!」

隠居「いやいや、それは無理じゃ。わしは陰陽師3級だから倒し方までは知らん」

ミラ「どういう資格なのそれ!? わっ安倍ちゃんがこっちに来た! 怖い怖い!」

安倍「(モノマネで)オリンピック、パラリンピックに向けた、我が国民の、火の玉精神は、挙国一致の、美しい国を、もたらすので、あります」

隠居「ちなみにわしは陰陽師3級だから知っとるが、生霊に念仏は効かんぞ」

ソメ「なんだよもう! これでも食らえ!(せいろと丼を投げる)」

隠居「ああーそれはわしの昼メシのもり蕎麦とかけ蕎麦じゃ!」

安倍「グエー!」

ミラ「やった! 効いてるぞソメイティ! ……もりとかけ……そうか、安倍ちゃん本体が嫌がるものがダメージになるんだ! それなら、(植物図鑑のソメイヨシノのページを開いて頭上にかかげ)桜を見る会!」

安倍「ギャー!」

ソメ「(パック入りのはんぺんをくちに当てて)アベノマスク!」

安倍「ヒイー!」

(BGM:天空の城ラピュタのクライマックスの曲)

ミラ「よし、安倍ちゃんだいぶふらついてきたぞ。ソメイティ、とどめはあの言葉を一緒に言おう。おいらの左手に手を乗せて」

ソメ「よしきた!」

二人「(見台の上で両手を重ね合わせて)……コロナ!!」

安倍「うわー! 目がー目がー! ……(体を震わせてぼそぼそつぶやくように)うちで踊ろう……ひとり踊ろう……」

(効果音:ドロドロドロドロ)

ミラ「やったぞ! 安部ちゃんが消滅していく!」

ソメ「ミライトワ、おでこの2020もすっかり消えたよ! これで地方自治体のゆるキャラに再就職できるね!」

隠居「ほっほっほ、よかったのう二人とも。ところでテレビの国会中継を見てごらん」

ミラ「あっ、安倍ちゃんのおでこに2020の文字が!」

ソメ「生霊を倒したから本体に2020が戻ったんだ。……こうして見ると安倍ちゃんて、2020年のマスコットキャラみたいだね」

ミラ「おいらたちもそうだけど、みんなこの人に振り回されたからなぁ……。2020年のマスコットキャラというか代表選手というか……」

ソメ「名前をつけるとしたらなにかな。超人2020年マン?」

ミラ「いやソメイティ、今の安倍ちゃんどう見ても面白い顔なのに、周りの人は誰も笑ってないだろ?」

ソメ「あ、本当だ。みんな目を反らして見て見ぬふりをしてる。ということは……どういうことなのミライトワ?」

ミラ「つまりね、名前をつけるとしたら『そんたくん』ってことさ」〈終〉

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