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どこからともなく、果物売り

 うちの界隈では、歩いていると突然に「果物屋なんですが、いりませんか」と声をかけられることがある。その際に都内の遠くの地名を言う。たとえば「八王子の果物屋ですが、リンゴいりませんか」的な声のかけ方である。
 そもそも、路上で果物を買うことを、こちらはまったく想定していない。声をかけられて、とまどう。

 出かけるときはもちろんだが、帰り道だとしても、おそらく買わない。何やら怖い。かつては近所中を1軒ずつ訪問して果物を売る「○○から来ました」さんもいたが、ドアを開けて詳しく話を聞いたことは一度もない。

 最近の方々は、通常ならば目立たない路地などにバンを停めてから、歩く人に声をかける。こんにちは〜と言われて、道に迷っているのかなと返事をしてしまうと、「そこ(バンを指さす)で、果物をいかがですか」という展開になる。これは何度でも驚く。地元で無料で味わえるスリルだ。

 だが、昨今のように商店街に人がいなかったり、混雑緩和のため交代で店を開けている状態だと、休んでいる店の前にバンを停め…といったことも、あるようだ。今日は通りかかった警察官が事情を聞いている現場にさしかかり、ライトバンのうしろを開けて商品(おもにボトル入りジュース)を見ているところをチラ見したが、意外にも普通の商品であり、しかもぱっと見は高そうに見えるものだった。予想していたような怪しさは、少しだけ薄れた。事情により、普通に売る販路がないのだろう。

 さて路上販売は、おそらくだが…正規の許可はまず下りない。どこかの店の敷地内(たとえば店の前の駐車場など)で売るのはその店の許可を得ればいいが、路上はおそらく無理だ。
 加工品のように完全に封がしてあるものなら、調理品などにくらべて保健所の許可は厳しくないだろうが、警察の目から見れば、内容が食品だろうが一般の物品だろうが、路上販売は同じ基準で取締を受けることになる。また、もし販売する商品が中古品で、どこかから仕入れたものであれば、古物商の免許があるかどうかも、公安がチェック対象にするだろう。

(上の段落は、細かくチェックせずに、一部は勘で書いている。そんなに外していないとは思う)

 いずれにせよ、おそらくわたしは、よほど世間話でもしたくなる年頃にならないかぎり、路上の果物屋さんとはご縁がないまま過ごすことと思う。

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