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ハワイを想って、日本の名店を思い出す

海外旅行が遠く夢の話になって、かれこれ1年以上が経ちますね。
いや海外どころか実家にも帰れていないんだった、今年の夏は帰れるかしら。
時々、心は遠くの地へ行きたがる。

そんなわけで、私の遠い記憶、あのハワイに初めて降り立った時の話しを聞いていただきたい。共にハワイへ行きましょうぞ。


友人と2人、あれは20代半ばだっただろうか。
2度目の海外旅行だった。

ちなみに初めて行った海外旅行は、懸賞で当たった香港で、母と2人ツアーに次ぐツアーを組み込まれ、3日間バスに揺られまくって、タイガーバームを大量に購入し、美味しくない飲茶を食べさせられた、全面的ツアー恐るべしな思い出だ。

なので前回の海外旅行の反省を踏まえ、極力日本人ツアーを控え、これぞリゾート!を満喫する気満々だった。
ガイドブック片手に、浮かれ倒して、ハワイの地に降り立つ。アローハー!!

そう。浮かれすぎていたのだ…


ハワイに着いて何日目だったか、私たちは、ハンバーガーショップでひと休みをしていた。
そしたら、現地のおじさんらしき人が、ニコニコしながら話しかけてきた。
手には、デッカイ炭酸飲料を持っていて、「飲むかい?」と言う。

いや、今のようなご時世だったら、絶対あり得ないし、今のようなご時世でなくても、ノーサンキューな案件だろうよ。
しかしここはアメリカだ、日本で出てくるLサイズをSサイズだとのたまう国だもの、おっちゃんは多分、デカイその炭酸飲料を飲みきれないんだと思った。

あと、ドラマや小説で、やたら人懐っこいタイプの主人公が、見るからに怪しい方々と仲良くなり、「あの娘さんのために一肌脱ぐか!」と人生のピンチに救っていただく、みたいなシーン、ああゆうの憧れてた。
人類みな兄弟、偏見なんてくそくらえ。
私はハワイの人と盃を交わすのだ!

そういう、アホな思考回路が秒で出来た。

それで意を決して、私は見ず知らずのおっちゃんのジュースを少しだけいただいた。友人はドン引きだった。

そのせいで、どうやらおっちゃんは、私たちをいたく気に入ってしまったらしい。
もう色々話してくる。
おっと、私の英語力を舐めるな、半分以上分かっていない。それでも盛り上がるからリゾート地って恐ろしい。
最後におっちゃんは、滞在先のホテルを聞いてきた。
流石にそれは教えられないでしょー!と友人に笑顔を向けたら、友人がサラリと答えてしまって今度は私はドン引きした。

翌朝だ。おっちゃんはホテルを出た通りで私たちを待っていた。
友人とお互いを罵り合う。
「あんたが盃を交わすから!」
「いやいや、あんたがホテルを教えるから!」

おっちゃんは、私たちに気がつくと「今日はどこへ行くんだい?」と聞いて来た。
「アラモアナよ」
おい!ついてきたらどうするんだ、何でも答えるなよ!!と私は友人に目で訴える。
そしたら、おっちゃんは、懇切丁寧にバスの乗り方やその付近のおすすめのショッピングスポットを教えてくれた。

「わー、やっぱり良い人ー!」
単純な私たちは、サンキューサンキューとおっちゃんに愛想を振りまいた。
それを待っていたのか、おっちゃんは、
「今日のディナーの予定はどうなってるかな?よかったら、ハワイで1番のお店に連れて行くよ」

ハワイで1番!!
これが自分の娘だったら「アホかお前、何知らんおっさんについて行っとんじゃー!」って怒るし、まず、海外旅行前にレクチャーすべき第一事項にするし、いや、小学校でも教わっとるわい!って話です。

私たちは、まんまとディナーの約束をした。
「怪しい通りに入ったら、絶対逃げようね」
「でもさ、おっちゃん良い人そうだし、ハワイで1番って気になるよね」
夕方、私たちは、前を歩くおっちゃんの背中を見ながら、不安と期待と冒険心に胸を膨らませていた。

するとおっちゃんは、まさかの場所でピタッと足をとめ満面の笑顔で振り返った。
「ここだよ!ハワイで1番の店は!」


…こ、ここ…



CoCo壱番屋ーーーー!!!


確かに1番だよ…店名もそう言ってるよ…

私たちは白目を剥いた。

入店してすぐ、日本人の店員さんが「ああいう輩について行かない方が良いですよ、日本人好きの怪しいのがたくさんいますから」と言ってきた。
ああ、何度もそうじゃないかと思ってたけど、やっぱり怪しいおっちゃんだよね、ごめんなさい気をつけます…
私たちは、意気消沈でカレーを食べる。

元気なのはおっちゃんだ。
「このエビは、君の唇のようにプリプリで、このイカは君の肌のように白い!」
カレーにまみれて黄色くなったイカをこちらにみせながら、中学英語の上手い例文みたいなのを聞かせてくる。NHK基礎英語出演なう、だ。

「それが言いたいために、シーフードカレー注文してやがるな、納豆カレーを食べてからCoCo壱番屋を語れよ、何がプリプリだよ、こっちはガーリックシュリンプ待ってたんだよ、ハワイで1番の!」

とは、英語で返せなかった。
笑顔のまま、日本語で悪態をつく私に友人が「笑顔のままなのがスゴイ!」とゲラゲラ笑い、それをみて、おっちゃんも「SUGOI SUGOI !HAHAHAーー!!」と笑っていた。
おそらく、このテーブルの3人は、めちゃくちゃ楽しそうにカレーを食べている。


ハワイで食べるCoCo壱は、日本で食べるCoCo壱と変わらぬ美味しさでございました…

結局、おっちゃんにお金を取られるとか、危害を加えられるとか、ご馳走してもらうというのも無かったが「白いイカのような」のくだりで、軽く手を握ろうとしてきたのがおっちゃんのハイライトで、その時の私は「ロコモコ、ステーキの店じゃない恨み!」とばかりに、猛烈な目つきをしてそれをかわした。いや、店が正解でも手を握るとかないからね。

それにしても、あの時の危機管理意識の低さは、今思うと本当に恐ろしい。
知らない人のジュース飲んじゃ、ダメ、絶対。
知らない人について行っちゃダメ、絶対。


そして、今でもCoCo壱番屋の前を通るたびに思う。
あのおっちゃんは、まだ、ハワイにおける1番の名店をCoCo壱番屋としているのか、それとも、のちにハワイに進出した丸亀製麺の麺を「君の肌のようにモチモチで真っ白だ」と言っているのか、どこまで日本を愛していたのか、それともただアホな日本人女性を探していただけだったのか…


ちなみに、おっちゃんは、歯があんまりなくて、ちょっと臭くて、陽気な5、60代の小太りな男性でした。何をもって良い人そうなのか、怪しいとするかは人それぞれだが、リゾート地における陽気なおっちゃんは、良い人に見えがち。

それより。
これは、まぎれもなくハワイに行った時の話しであるのに、全然遠くの地に行った気がしない。私の心は、今、CoCo壱番屋にある。
あなたの心は、ちゃんとハワイに行けましたか?


時々、心は遠くへ行きたがる。
どこにでも、ビューンと行ける日が戻って来ることを祈ってやまない2021夏でございます。



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