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#6 岸田國士「劇の好きな子供たちへ」より/ヒロインになれなかった話/どさんこ役者の東京アドベンチャー 演劇編 

ききまぐれ朗読へようこそお越しくださいました。
こちらでは、著作権フリーの電子図書館「青空文庫」から、
演劇や芸能に関する書物を紹介しつつ、その内容にまつわる、
わたしの演劇思い出ばなしをしています。

さて、演劇思い出ばなし は岸田國士さんが書かれた、「劇の好きな子供たちへ」
の第4節
ー俳優はいやしいものであってはならないー
の後半をご紹介いたします。

先に、ちょっとだけお断りをしますと、文中に少々差別的な表現が出てきますが、書かれたのが昭和20年代であり、今と社会状況が大きく異なるということをご理解いただきたいと思います。

本文はこちらのリンクをご覧ください。

いろいろと、厳しい表現が書かれていますが、この文の芯というか、
岸田氏が、ここで言いたいことを、私にあてはめて考えると、
表現者は、おもねることなく、誇りを持って、人前に立ちなさい、
ということを言いたいのではないか、と、思っています。

さて、文中の「気品」というキーワードで、思い出したことがあります。
ちょっと、文中の本題からは外れるかも知れませんが、お話ししたいと思います。

クラシックバレエの女性の主役、プリマバレリーナ、
つまりヒロインの条件は「王女ができること」だそうです。

王女、です。
女王ではありません。

つまり、「若い」「お嬢様」。ついでに言うと「美しい」も条件に入ると思います。
王女、という身分ではなくても、裕福な家で育った上品なお嬢様というキャラクターが、ヒロインの重要な要件なんだと思います。

わたしは、いわゆるバイプレーヤー、つまり、脇役が多くて、主役をいただいたときでも、この王女さまに相当する役をいただいたことはありません。
老いた女王であるとか、恋人を毒殺してしまった女医とか、子どもとか…………。いいとこのお嬢様には、どうしてもたどり着けませんでした。

ところが、たった一度だけ、そのお嬢様に手の届きそうなときがありました。
役柄は、あの、ロミオとジュリエットのジュリエットです。
ジュリエットは大きな町の二大実力者の片方の一人娘。
立派なお嬢様、しかも、一目でロミオを射止めてしまう、美しい少女です。

当時所属していた劇団のレパートリーで、ロミジュリと、オペラのドンジョバンニをくっつけたミュージカルコメディがありました。
その演目は、わたしが高校時代に観劇して、あまりにおもしろくて
「わたしが目指す道はこれだーっ!!」
と心で叫び、その後入団のきっかけになった作品でした。

わたしが入団1年目のとき、その作品のリニューアル公演が決まり、
団内のキャスティングオーディションで、わたしは自分で日本語詩をつけた
シャンソンの「メケメケ」を、芝居っけたっぷりに歌ったところ、
外部からお招きした演出の先生に
「いや~、こちらには、ずいぶん魅力的なコがいるねえ!!」と気に入ってもらえ、わたしはジュリエットのアンダースタディーになりました。

アンダースタディーとは
演劇において、主要な役柄を演じる俳優に不慮の事態が生じる場合に備え、予めその代役を務められるように準備をすること、また、そのような準備をし、公演中待機している俳優のこと。

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

劇団のプロデューサーからは、
「あいつは歌が下手だからレッスンさせろ」と命令が下るわ、
そうそうたる先輩女優陣で構成される演出助手チームに入れられるわ、
(わたしは入団1年め。メンバーで1年目はわたし一人でした。。)
なにやら、とても期待していただいていました。

演出の先生とは、帰り道が一緒になることが多く、
何度かおしゃべりして一緒に帰り、とても可愛がっていただきました。
いくらヒロインに縁遠いキャラクターのわたしだとて、
「Mさん(ジュリエット役の先輩)に何かあったら、
わたしにチャンスがやってくるんだ………」
と欲が出てきていました。

ところが、わたしは、そのようなラッキーなヤツであり、
全員参加の公演なので、アンサンブルで出演者に名を連ねてはいたものの、ダンスが下手で群舞から外されるわ、ミュージカルナンバーを一曲歌いきることも
できないわ、という、お粗末なミュージカル女優でして、
(え、どうしてミュージカル劇団に入ったの?って、訊かないでくださいね。
その劇団のお芝居が好きで、ミュージカルやるという意識がなかったんです(//∇//))

本役の先輩は、劇団側が推す方を退け、
演出家が気に入ってバッテキされた方でもあったので、
たとえ天地がひっくり返っても、役を人に渡すなんていうことはあり得ない、
と思えるほど気迫にみなぎっていました。
しっかりレッスンを積み、小柄ながらも実力は申し分ない、M先輩の代役なぞ、
わたしに勤まるはずはなかったのです。

実際、稽古から本番に至るまで、わたしがM先輩の代役を勤めることは一度もありませんでした。

公演は無事に終わり、居酒屋の二階を借りきって、打ち上げが行われました。
演出の先生とも今日でお別れなので、ビール瓶を持って、
ご挨拶にうかがいました。

わたしが、ちょっと、ジュリエットができなかったことをこぼしましたところ、「ん〜、君はね〜、ぴっったりの役がなかったんだよね」
とあっさり返され、
あれ?オーディションで先生が、ジュリエット役にと気に入ったから、
私はアンダーになったんじゃないの?と不思議に思い、
自分はジュリエットのアンダーだったんですが、と言うと
「え?キミ、アンダーだったの?!」とビックリされてしまいました。

え(・∀・)

おそらく、劇団側が、先生が私のことを気に入ったということに目をつけて、
アンダーにしてくれたんだと思います。
いま、考えると、それはそれでありがたいことだなあと思いますが、
当時は、たいへんショックでした( ;∀;)

ミュージカル劇団時代のお話しは、まだまだございます。
また折に触れて、お話ししたいと思います。

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こちらもぜひ、お聴きください(^-^)



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