ふぉんとーく #2 Bahnschrift・DIN篇
第1回(游明朝游ゴシック篇)に引き続いてふぉんとーく第2弾です。今回扱うBahnschriftとDINはグラフを作るにあたって、数字の形がきれいな英語フォントを探したときに出会いました。どちらもサンセリフ体に分類され、数字はもちろんのこと英字のデザインも美しく、幾何学的なデザインをしています。
DINはMacに入っているフォントで、BahnschriftはWindowsに入っているフォントです。詳しくは後述しますが、DINは家(血筋)で、DIN家に生まれ育って独り立ちして家計を別にしているのがBahnschriftさんというイメージです。
セリフ体・サンセリフ体とは?
導入部にサラッと「サンセリフ体」と書きましたが、この単語の意味が分かる人はそうそう多くないのではないかと筆者は考えています。簡単に言ってしまえば日本語フォントでいう「ゴシック体」という意味です。「サンセリフ」という言葉は「サン」と「セリフ」の2単語に分解することができ、「サン」は否定、「セリフ」は文字の線の端部分に付けられる飾り(うろこ)を意味し、「サンセリフ」で「うろこのない書体」という意味になります。
反対に、「セリフ体」という言葉もあり、これは「うろこのある書体」という意味で日本語フォントでいう明朝体のようなイメージです。
有名どころの英語フォントを並べてみました。このうち上3つがサンセリフ体、下3つがセリフ体です。サンセリフ体は先進的な印象やインフォーマルな印象を与え、セリフ体は古風な印象やフォーマル/アカデミックな印象を与えることが分かります。
日本語フォントについて一般的に、見出しはゴシック体、本文は明朝体と言われています。英字フォントについても似たようなことが言え、見出しにはサンセリフ体、本文にはセリフ体が適しています。
(シェイクスピア「ハムレット」より 上がBahnschrift、下がTimes New Roman)
これは紙媒体にしたときに顕著になります。そのためビジネスシーン等で英語の長文が含まれる資料を作る際は確実にセリフ体を用いるのがよいでしょうし、アカデミックなシチュエーションでは大概Times New Romanを使えという縛りが存在します。
しかしデジタル媒体で文字を扱うときや、堅いイメージを持たれたくないときはサンセリフ体を選んだほうがよく、その際にBahnschriftやDINは良い選択肢の1つになります。
主役にも脇役にもなれる
英字フォント選びの際に「迷ったらBahnschriftとDINがいいよ!」と言い切れるわけではありません。なぜなら、上述したセリフ体サンセリフ体の向き不向きに加えて、字自体にある程度の個性があるからです。しかしこの個性の強さの度合いがこのフォントの汎用性を増させています。
筆者はフォントが果たす役割は主役としての役割と脇役としての役割があると考えています。ここでは主役としての役割を主にロゴなどで文字がそのまま何かの記号になること、脇役としての役割を何かを意図して書かれた文章に何かのフォントが設定される(つまり主役が文章の中身である)ことと定義します。
文字が主役になるには、ある程度元のフォントに手を加えるとしても、字だけでデザインが完結する必要があります。字だけでデザインが完結するにはフォントにある程度以上の個性の強さがが求められます。
これは有名デザイナーの佐藤可士和さんがデザインしたユニクロのロゴです。
(https://kashiwasato.com/project/6821より引用。洗練の極み…)
右側の英語のUNIQLOのロゴのフォントのもとになったのがDINです。もちろん、フォントだけでロゴは完成しませんが、フォントはロゴの重要な構成要素です。この洗練されていてかつキャッチーなロゴからDINの主役適正(?)が感じられるのではないでしょうか。
この画像上の文章のフォントがBahnschrift、下の文章のフォントがImpactです。おそらくほとんどの人が上の文章のほうが内容が頭に入りやすいと感じるでしょう。ここでの文章が頭に入ってきやすいかが本稿でのフォントの脇役適正です。またBahnschriftの可読性の高さもこの画像からおわかりいただけるのではないでしょうか。
ここで注意していただきたいのは、脇役適正の低いフォント=悪いフォントというわけではないことです。何を隠そうこのImpactというフォントはトビログのロゴ、通称トビロゴ(by貫通錯誤)に使われているフォントなのです。
個性が強いフォントも自己主張が激しくないフォント等、フォントの特性を理解して使用することはとても大切です。TPOに合わせてフォントを選べば、効果的な情報伝達の助けになります。BahnschriftとDINにように主役適正と脇役適正を兼ね備えたフォントはそうそうありません。ゆえに両者はある程度の扱いやすさを持つと言えるでしょう。
ここまで読んで、BahnschriftとDINの良さが分かったけれども、英語で文章を書いたりプレゼンをする機会なんてほとんどない!という方もいるのではないでしょうか。しかし、英字フォントを使う場面=英語を使う場面ではありません。
BahnschriftとDINの半角数字は可読性に優れていて図表に用いるのに途轍もなく適しています!!!
これはグラフづくりのルールをガン無視した最低なグラフ(見やすいグラフの作り方の記事もいつか書いてみたいです)なのですが、それでも数字が目に飛び込んできて見やすいはずです。またBahnschriftやDINは近視の人が遠くから見て認識しやすいフォントの1つなので、プレゼンテーションに載せるグラフをこのフォントで作ると聴衆に優しい発表に一歩近づけます。
BahnschriftとDINの歴史
「DIN」は「Deutsches Institut für Normung(ドイツ工業規格の意)」の略称です。1931年にドイツで工業製品に書かれる文字を均一化するために作られたフォントで、今でもマンホールの蓋や道路標識に使われています。DINは幾何学的なデザインから人気を博すようになり、いくつかの新しいバージョンが開発されました。
そのうち、DINのなかでもDIN1451という種類のフォントから開発されたのがBahnschriftです。Bahnはドイツ語で道路や軌道を意味する単語です。ドイツの高速道路の名称であるアウトバーン(Autobahn)のbahnにもこの単語が含まれています。schriftはドイツ語で文字を意味する単語です。Microsoft社のフォント開発チームは2013年からBahnschriftの前身とも言えるフォントを開発していましたが、記号については少ない種類分しか開発を行わず、公式にフォントをローンチすることはありませんでした。
しかし2016年にGoogle、Apple、Adobe、Microsoftが協力し、バリアブルフォントとしてBahnschriftをリリースしました。バリアブルフォントとはウェイト(フォントの太さ)や字幅を自由自在に変えることのできるフォントで、BahnschriftがMicosoft社が初めて開発したバリアブルフォントです。
(バリアブルフォント
https://www.shutterstock.com/ja/blog/variable-fonts-typographyより引用
・Microsoft社がBahnschriftの歴史を詳しく説明しているページ(英語)
https://docs.microsoft.com/en-us/typography/font-list/bahnschrift )
おわりに
その由来ゆえにデザインがかなり似ている2つのフォントを同時に扱ってしまい、少し混乱を招いたかもしれません。何はともあれ、プレゼンテーション等を含めて電子媒体で英数字を使う時は、BahnschiftやDINをぜひぜひ使ってみてください。紙媒体でも文学的な内容以外には雰囲気が合致しているうえに何よりも読みやすいので積極的にこれらのフォントを取り入れてみてください!
次回もお楽しみに!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?