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6.湯飲みと名曲

パリンッ

今朝、僕が愛用していた湯飲みが割れた

カラカラと揺れる湯飲みの破片は芸術的とも思える配置で飛散していた

一瞬だった


この湯飲みはただの湯呑みでは無い

僕が小学校6年生の頃、修学旅行で行った日光で制作した思い出の湯飲みだ

その証拠に湯飲みには僕のオリジナルキャラクターの「猿くん」が描かれている


この湯飲みは湯飲みとして、とても優秀で、ちょうど良い大きさ、ちょうど良い重さ、ちょうど良い容量だった

全てが丁度良い


今朝も普段通り、寝起きの一杯を飲もうと沸騰した湯をポットへ注ごうとした

その時だ

見事にポットの先端が湯飲みに衝突

カタン、カラカラと転がり
熱湯とともに湯飲みは床へと落下

そうして写真の通り


ただ

僕は案外、この現実を素早く受け止めることができた

「あ、割れたな」

とだけ思った


湯を入れ損ねた湯飲みの破片は無惨だったが不思議と綺麗にも見えた


そんな惨事の最中、部屋にはフレディーマーキュリーの曲がシャンシャンと流れていた

私はふと

「そういえばこの人って、もう、死んでいるんだよなぁ」

と思った

スピーカーからはこんなにも力強い声が聞こえてくるのに、

にわかには信じがたいし、そう思うとなんだか寂しい気がする

ここに確かに、この曲の中に、彼は生きているけれど
彼が当時何を思っていたのか、もう誰にも分からない

アートはアーティストが死んでから本当の価値を見出される事がよくあるが

僕の湯飲みも、もしかしたら同じかもしれない

割れてからはじめて、この湯呑みが大切なモノだったのだと気付いた

そんな事を考えていると、だんだん、もったいない事をしたように思えてきた。

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