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僕はベンチにいる佐藤輝明をずっと見ていた【6/24 対ベイスターズ戦●】

野球の試合を見に行く日は、なるべく早めにスタジアムに着くようにしている。試合前の練習を見学したり、観客がまばらなスタジアム内をのんびり散策したり、いろいろやりたいことはあるけれど、1番の目的はスタメン発表だ。だいたい試合開始30分~20分前に行われるメンバー発表。ビジターチーム、ホームチームの順に選手の名前が一人ずつ呼ばれる。別に球場での発表を待たなくても、手元にあるスマホを開いてスポナビのアプリを開けば即座にメンバーは分かる。
けれど、あの名前を一人一人読ばれ、互いのチームのファンが拍手や歓声で後押しする時間が、僕は好きだ。

スタメン発表が終わりスタジアムが再び静かになった。
佐藤輝明の名前は、呼ばれなかった。

横浜スタジアムに試合を見に行くことを決めたとき、すでに3塁側に目ぼしい座席は残っていなかった。当然ながら1塁側はベイスターズファンでいっぱいなので、喜び方は控えめにしないといけないけれど、その代わりタイガース側のベンチがよく見える。この日座った席から距離はあったがベンチに座る選手たちの様子が見えた。

タイガースの守備の時間、これまでの試合ではそこにいないはずの大きな背番号8が座っている。攻撃を終えてタイガースの選手が一斉に守備位置に飛び出していっても、佐藤輝はほかの控え選手同様、グラウンドには出てこない。数回を手を叩いて味方を鼓舞し、再びベンチに座る。いつベンチを見ても佐藤輝がいる。大きく逞しい体が、この日はちょっぴり小さく見えた。

誤解しないでほしいのだが、佐藤輝は決して不貞腐れていたわけではない。ピッチャーが3アウト目を取って野手が戻ってくるときはベンチの前で選手たちを迎え入れていたし、試合序盤にJ.ミエセスがチャンスを広げるヒットを打った時はミエセスお決まりのピースポーズを披露していた。控え選手の一人として、試合に入ろうと努めていたと思う。


チャンスらしいチャンスもほぼなく、終始重苦しい展開だったことも関係していただろうけれど、いつもような喜怒哀楽の感情が、この日の佐藤輝からは感じられなかった。

(つまんなそうにしているなあ)

僕はそんなことを思いながら、望遠レンズ越しに佐藤輝のことを見ていた。
この日、佐藤輝の出番はなかった。佐藤輝がグラウンドに出てこない試合は、いつもと比べてちょっぴりつまらなかった。



翌日、佐藤輝が2軍に行くことが報じられた。

悔しいに決まってる。2位ベイスターズとは0.5ゲーム差になった。まだシーズン中盤で順位を気にする状況ではないとはいえ、今年のタイガースにとって最初の大一番になることは間違いない。そんな試合を前にして、主砲の佐藤輝が試合に出場する可能性が完全になくなった。
カード3連戦の最後の試合、「今の」佐藤輝を使う場面はないとチームから判断された。
こんなの、悔しくてたまらないに決まってるじゃないか。

正直、まだ気持ちの整理はついていない。この決断が妥当なのかそれとも単なる思いつきにすぎないのか、ベンチの裏側を知らない僕には判断できない。

佐藤輝抜きに戦えるほど充実している野手陣じゃないから1軍に置きながら本来の調子を取り戻してもらおうという意見も分かる。一方でこのままきっかけを掴んで離しての繰り返しじゃ大きく突き抜けられないから、勝敗にこだわりすぎなくて良い場所でリセットするのが大事だって意見も分かる。
リーグ戦が再開した初戦で判断されるなんて気の毒にと思ったけれど、そもそもあの1試合で判断したのかそれ以外のところで決めたのか、それは僕には分からない。
プロ野球なんて、実は見えないところで起こっていることのほうが圧倒的に多い。

分からないことだらけだけど、確信を持って言えることもある。
佐藤輝はこんなところでくすぶる選手じゃない。今のままで終わるはずがない。
迷いながら打席に立つ選手じゃない。ベンチで厳しい表情をしながら戦況を眺めるだけの選手じゃない。

1軍に戻ってきたときは、大きな体で伸び伸びとプレーしている姿が見たい。
誰からどう見ても「佐藤輝がいなきゃタイガースは成り立たないよね」って思わせるくらい活躍してほしい。

僕ができるのは、その日が1日でも早く来ることを願って待つことだけだ。


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