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桐敷拓馬がタイガースの“キリフダ”たる所以を見た【8/2 対ベイスターズ戦】

8回裏にベイスターズが反撃を開始したとき「ああ、プロ野球だなあ」というのをすごく感じた。横浜スタジアムの3塁側はベイスターズファンとタイガースファンが入り混じって座っている。決していがみ合うことはなく、それぞれが思い思いに野球観戦の時間を楽しんでいた。
だが8回にベイスターズ打線が先発の村上頌樹を捉え始めてからは状況が変わった。逆転を信じて打者にエールを送るベイスターズファンと、抑えてほしいと願うタイガースファン。双方の応援があちこちから聞こえてくる。球場に来ていなかったら、この雰囲気は分からなかったかもしれない。
そんな混沌とした状況で、桐敷拓馬が3番手としてマウンドに上がった。

ブルペンカーに乗った桐敷がグラウンドに現れると、3塁側の声援がひと際大きくなった。この声援の大きさは桐敷がこれまでの登板で信頼を掴み取った何よりの証だ。

安藤優也投手コーチ、キャッチャー・坂本誠志郎と言葉を交わし、マウンドには桐敷ひとりになった。2アウトだが満塁でリードは2点。1本のヒットも許されない場面だ。

桐敷が初球を投じる。球場のスピードガンは150kmを記録していた。スポナビの1球速報ではインコースのツーシームと表示されている。2球目もインコースのツーシームを続けた。相手バッターはインハイを得意とする佐野恵太だ。少しでも間違えば最悪の結果になりかねない。あのボールを使わないと抑えられないことが、この状況の厳しさを物語っている。要求する方も投げきる方もプロフェッショナルだ。

ウィニングショットはフォークだった。コース低めに決まったボールはセカンド・中野拓夢の守備範囲に転がる。打球の行方を大事そうに見守る桐敷。ボールがファーストミットに収まったのを見て、桐敷は力強く吠えた。

チームの連勝、村上の勝ち星、前を投げた石井大智が奪った1つのアウト。ありとあらゆるものを背負って投げたインコース高めのボール。あのしびれる場面の初球でインハイに投げきれるからこそ、桐敷はタイガースの“キリフダ”なのだと思った。

試合が終わってヒーローインタビューに出てきたのは、桐敷。ビジターゲームのヒーローインタビューで呼ばれるのは通常1人だけ。リリーフがビジターゲームのヒーローインタビューに出てくるのはすごく珍しいことだ。それほどのことをやったのだ。

いつもありがとう。君がいるからタイガースは今もこうして戦えているんだ。

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