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代打・糸原健斗を満喫する方法【7/22 対スワローズ戦●】

126。昨シーズン糸原健斗がスタメンで出場した試合の数だ。そして今年はというと、7月22日時点で7試合。DHが採用される交流戦で2試合、佐藤輝明がファームに行っていた期間の5試合のみにとどまっている。去年と比べて大きく様変わりしてしまった。糸原は昨シーズンまで100本近いヒットを毎年コンスタントに打っていた選手だ。正直に言うと、ベンチがメインになった糸原をどんな風に見たら良いのか、その答えが分からなくなった時期もあった。
球場に行くと、糸原の人気の高さに驚く。打席に立てば黄色と赤色の応援タオルが客席から掲げられるし、ヒットを打てば一段と大きな歓声が響く。それはスタメンで出ている時も控えの時も変わらない。ベンチスタートになったとしても糸原という選手の尊さは変わらない。今はそう思える。
 
とはいえ、糸原に求められるものは昨シーズンまでと今シーズンでは大きく変わってしまった。それをすんなり受け入れられる人ばかりではないし、かつての僕のように戸惑っている人もいるかもしれない。だから今日は「代打・糸原健斗」を満喫する方法を考えてみようと思う。


 
スタメンで出場している選手の打席はいつ頃回ってきそうかをある程度予想できる。一方控え選手は監督が交代を宣言しない限り出番が来ない。序盤から代打が出ることは滅多にないから、今の糸原に出番が来るのは試合の中盤、もしくは終盤になる。
 
今日は出るだろうか、いつ出るだろうか。タイミングが固定されていなくて糸原本人にとっては苦しいかもしれないが、僕は待つ時間も含めて楽しみにしている。ベンチからネクストバッターズサークルに出てきて準備を始めるその瞬間も。
周りのお客さんが「代打かな」「誰かな」とザワザワする時間。テレビではなかなか味わえないこの瞬間が好きだ。レガースの色や素振りのフォーム、全体のシルエットで選手を判断する。
 
来るぞ、来るぞ。糸原が。
 
来るべき出番が近づき、少しずつ高揚していく雰囲気。そして球場アナウンスの「バッター・糸原」の声で、その盛り上がりは最高潮に達する。
 
この一連の流れは全ての代打の選手で起こるわけじゃない。糸原や原口文仁、ファンと共にいろんな思い出を割り勘してきた選手だけに許された特権だ。
 
 
声や仕草で味方を鼓舞する姿は、レギュラー時代から変わらない。だがスタメンで出続けていた頃と違うところがある。ベンチでスタメン選手を迎え入れるようになった。
ピッチャーが3アウト目を取って、野手たちが守備位置からベンチへ戻る。糸原は真っ先にベンチを飛び出して選手を迎え入れる。佐藤輝や中野拓夢らを鼓舞するように、手を叩きながら何か呼びかけている。
糸原がほかの選手を迎え入れるときはほぼいつもベンチ組の最前列だ。これは僕の想像だけれど、彼なりに試合に入っていこうとしている現れだと思っている。テレビの中継ではめったに映らないけれど、球場に行ったときはぜひ注目してほしいポイントだ。

選手を迎える糸原(右から2人目)


岡田彰布監督が糸原のことをムードメーカーとして名前を挙げていたことを知った。試合の雰囲気を味方側に引っ張っていく役割がムードメーカーだとするなら、糸原は自らの打席でも良いムードを引っ張ってこようとしているのではないだろうか。僕はそんな風に考えている。
 
8回、この日の糸原は先頭の代打で起用された。マウンドにはセットアッパーの清水昇。この回の直前、スワローズの攻撃でタイガースは手痛い1点を失った。試合の雰囲気は確実にスワローズが握っていた。
糸原に投じた3球目。変化球を捉え、打球がショートの頭を越えていった。糸原らしいヒットで先頭が出た。このままじゃ終わらない。糸原がそういう雰囲気を作ってくれた。これまでずっとベンチで待機していた糸原が反撃のきっかけを作ってくれた。
 
この日のヒットで7月の糸原は10打数4安打になった。シーズンはじめは糸原らしくない成績だったけれど、徐々に打率も伸ばしている。彼なりに代打というポジションを考え、うまく適用してきた何よりの証だと思っている。
決して大きくない体でピッチャーに向かっていく姿勢。直球に振り負けないスイング。追い込まれてから真価を発揮する粘り。そこに華やかさは少ないかもしれないけれど、ただ純粋にかっこいい。
 
試合の終盤にさっと現れ、チームの雰囲気をぐっと引き上げてくれる糸原はまさにヒーロー。そんな糸原が試合の突破口を開いてくれた―
そう言える日が来ることを僕は信じている。

大変な役割を引き受けてくれてありがとう。これからも頼んだ。


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