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勝ちたい 大山悠輔のために【4/5 対スワローズ戦○】

1塁ベース近くで、大山悠輔と西川遥輝が倒れている。

どうしてそうなったのか、一瞬よく分からなかった。5回の守備、少し逸れた送球を取りに行ったファーストの大山と、1塁ベースを駆け抜けた西川が交錯した。死球でも顔をゆがめない大山が、苦悶の表情を浮かべている。膝を曲げられず、丸まったまま横に倒れている。スタッフが大慌てで担架を運んできた。只事ではないことは、誰の目に見ても明らかだった。

色んなことが頭を巡った。ただでさえ大山はコンディション不良で終盤のオープン戦を欠場している。痛めているところにダメージが加わるんじゃないか。果たして試合に出られるのだろうか。もしかしてしばらく出られなくなるのでは。
もしそんなことになったら。大山の2024年シーズンに放つヒット、ホームラン、守備のファインプレー。そして何より大山と分かち合う勝利の瞬間。これらすべてがなくなるんじゃないか。

不安、動揺、混乱。たくさんの感情が押し寄せてきた。
担架が運ばれてくるまでの時間が、まるで時が止まったようにものすごく長く感じられた。

大山が立ち上がった。少しずつ膝を伸ばして、体の状態を確かめている。トレーナーと少し会話を交す。そして担架を運んできたスタッフに会釈した。「持ってきてもらったのにすみません」という意思表示なのだろう。自分のことで精いっぱいなはずなのに、痛くてたまらないはずなのに、どうしてこの人は周りへの気遣いができるのだろう。

大山は試合に出続けることを選んだ。僕が大山の家族や友人だったら、無理せず休んでほしいと伝えたくなるかもしれない。でも大山の体は、大山とサポートするトレーナーたちが1番分かっている。彼らが大丈夫と判断としたから、僕はグラウンドに立ち続ける大山を応援することにした。「行きます」と決めた大山に対して「無理をするな」と外から言うのは、彼に対して失礼なんじゃないかって気がした。

8回の攻撃。走者を1人置いた場面で大山に打席が回ってきた。スワローズのバッテリーはインコースを厳しく突いてくる。ゲッツー狙いに加えて、膝を痛めたであろう大山が引っ張り打ちをしてこないと判断したのだろう。突破口があると踏んだら徹底的に突いてくる。スワローズ・中村悠平の得意技だ。分かってる、勝負の世界に情けはない。

5球目のワンシームもインコースに来た。大山の打球が、3塁線の横を抜けていく。引っ張った強い打球が、外野まで抜けていった。全力疾走で1塁ベースを蹴る。走る。さっきまで痛みで立ち上がれなかった大山が、打球の行方を見つめながら腕を振って足を前に出している。
大山の2ベースヒットで1アウト2,3塁とチャンスが広がった。
すごい。すごすぎる。勝利に対する執念は、これほど大山の体に力を与えるのか。

リーダーのこんな姿を見て、周りの選手が燃えないはずがない。森下翔太は9回に起死回生の同点タイムリーを放ち、佐藤輝明は延長10回に今季第1号の勝ち越しホームランを放った。1点差で登板したJ.ゲラは来日初セーブを記録して試合を締めた。

勝ち越した佐藤輝のホームランのリプレイ映像。打球が飛んだ瞬間、ベンチに座って戦況を見つめていた大山が立ち上がった。興奮しながら腕を掲げていた。自分のホームランでは表情1つ変えない大山が笑っていた。もみくちゃになりながら、ベンチに戻ってきた佐藤輝と大山がハイタッチを交わした。

勝てて良かった。大山の気迫が報われて良かった。
これまでのどんな試合よりも、そう思えた。

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