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最後まで応援して良かった―大山悠輔が打ち破ったもの【6/23 対ベイスターズ戦●】

「もうフライ打ち上げないで〜」
お願いのような嘆きのような声が、僕の座っているレフトスタンド席の後ろから聞こえてきた。
ホームベースからはるか遠くにある外野席。そんな遠くでもベイスターズの先発・今永昇太のボールに威力がありそうなことは伝わってきた。

前に押し込もうとしてもボールの威力が勝り、力のないフライになる。入るか?落ちるか!?とワクワクすることすら叶わないフライ。タイガースの選手が高く上がるフライを打つ度にレフトスタンドからはため息まじりの声が聞こえ、ライトスタンドからは歓声が響く。

気づけば試合終盤まで来てしまった。原口文仁と近本光司の連打でやっときた初回以来のチャンス。コロナ禍になってから行かなくなって応援のブランクはあるけれど、染み付いて消えない勘が予感させる。
チャンステーマだ。

ビジターゲームのタイガースファンの応援はすごいって話はあちこちで聞く。僕も友達から同じくことを言われた。
でもこういうのって、当事者に近ければ近いほど周りからどう映るのかがよく分からない。声量がどうとか威圧感がどうとか、そんなことを考える暇なんてない。
ただバッターに打ってほしい、点が入ってほしい、試合に勝ってほしい。その一心で声を出しているだけだ。気づけば、さっきまでおとなしめに試合を見ていた男の子が立ち上がって大声を出している。負けてやるものか。男の子にも、ベイスターズにも。

チャンスは作ったけど後続は打ち取られた。こっちのチャンステーマより今永が3アウト目を取った時の歓声のほうが、よっぽど驚異的に思えた。地鳴りみたいだった。男の子は分かりやすくしょんぼりしていた。

最終回の攻撃。マウンドではまだ今永が投げている。「さあもう一度」と自分を鼓舞するように勢いよく席から立まわまわをち上がった。けれど、さっきのチャンスほどの熱気は今のスタンドにはない。

「!!!」

先頭の大山悠輔がスイングしたのが見えてから少し遅れて、文字にし難い驚きを含んだ声がスタンドに響いた。

高く、速い弾道。
僕がいる場所より右の方向に白いボールがグングンと伸びてくる。ボールはあっという間にスタンドに入った。もし外野スタンドがなかったらどこまでも飛んでいったんじゃないか。レフトスタンドにいる僕には、そんな風に見えた。

ここまでみんなが苦戦していた今永の高めのボールを、大山がついに攻略した。どれだけ応援しても、チャンステーマを歌っても跳ね返された今永の高い壁。その大きな壁を、大山が打ち破ってくれた気がした。

僕はさっきの男の子とハイタッチをした。驚きと喜びが全面に出ていた。きっと僕も同じ顔をしていたと思う。

試合が終わってもすぐに席を立つ気になれず、ぼんやりとスタジアムを眺めていた。はるか彼方に小さく見えるバッターボックス。あんな遠いところから大山はこっちまでボールを飛ばした。 

「大山ってやっぱりすごいなあ」

何度もテレビ中継で見たはずなのにそれ以外の感想が出てこなかった。


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