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一打にかける男の所作【9/28 対ヤクルト戦○】

いつもの手順。もしくは日常の仕事、日課。

辞典で「ルーティン」を調べたらこのように出た。やや表面的で差し障りのないような言い回しだ。プロ野球選手のなかでもルーティンを持つ人と持たない人がいるが、ルーティンの存在がその選手の個性を際立たせ、魅力的にさせる。イーグルス・鈴木大地やベイスターズ・楠本泰史の特有のルーティンは、球場の遠くの座席で見ていてもすぐにわかる。

タイガースの原口文仁もまた、印象的なルーティンを持っているバッターのひとりだ。原口は打席の中でバットを構える時、その先を見つめながら口をすぼめ、息をフーっと吹く。自らの力みを解きながら、集中を高めているのだろうか。そのルーティンを見ていると、僕の気持ちも自然と昂ぶってくる。彼の打席にかける気持ちのようなものがあのルーティンに詰まっているような気がするのだ。

持ち味の打撃に磨きをかけてきた原口が、真っ黒に日焼けして戻ってきた。夏場に2軍で鍛錬を積んだ証だ。凛々しい表情がより頼もしく見える。8月14日の対ドラゴンズ戦で原口は今シーズン初ヒットを放つと、そこからますます調子を上げていった。コロナ禍の影響で離脱者続出&8連敗となった日の試合で2年振りのホームランが飛び出した。チームがCS入りを目指して戦い始めた正念場で、原口は「5番・一塁」に定着した。

CS最後のひと枠に滑り込むために、負けられない試合が続いている。もちろん今日だってそうだ。先発の伊藤将司は不運な当たりのタイムリー1本に抑え、1対1で終盤8回を迎えた。先頭の糸原健斗が塁に出て、近本光司が送りバントで得点圏に走者を置いた。続く大山は凡退するも、原口に打席が回ってきた。

原口がいつものルーティンを終えて、相手のピッチャーと対峙する。スワローズのセットアッパー・清水昇は正確無比なコントロールで原口をすぐに追い込んだ。一瞬だけ原口の表情が歪んだ気がするが、すぐに厳しい顔に戻った。一打席勝負の代打業でやってきた原口のことだ。これしきのことでは揺らがない。フルカウントまで持ち込んだ後、ストレートをカットした。清水はフォークが強力なピッチャーだ。空振りしないよう、ギリギリまでボールを見ながら打っている。2球粘った後の8球目。ボールが投じられた後、見ていて思わず「あっ」という声が出た。

カーブだ。
このピッチャー、カーブも持っているんだった。

原口の動きが一瞬止まった後、原口のスイングがボールを捉えた。打球が三遊間を破っていった。その間に2塁ランナーが勝ち越しのホームを踏んだ。

すごい。すごすぎる。どうしてあのカーブに反応できるんだ。
勝負強さというか、そんな言葉では言い表せないような原口の真髄。
その一部を見た気がした。

原口が元気に野球をやれている、その姿を見られるだけで嬉しい。
活躍してチームのみんなから祝福されている姿が見られるなら、もっと嬉しい。
その活躍でCSを勝ち進めるのなら、もっと、もっと嬉しい。


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