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満員の甲子園でのコールってこんなに気持ち良かったんだ【3/10 対ジャイアンツ戦●】

普段から試合を見ている人からしたら今さらな話だが、野球の応援には前の回にホームランやタイムリーヒットを打った選手をコールで称える文化がある。コールの内容に多少の違いはあるが、外野スタンドから聞こえてくるコールと、それに選手が応えて一礼する姿は日本のプロ野球ではおなじみの光景だ。コールに応える大山悠輔のきれいなお辞儀がファンの記憶に残っているように、勝負良い打者ならシーズン中何度もファンからのコールを受けている。ある種勝負強い打者の証とも言えるだろう。

毎年のようにそれなりに野球場に通って試合を見ているけれど、僕は1番好きな選手がこのタイムリーコールを浴びているのを未だにこの目で見たことがない。
僕が応援している植田海がプロ入りしてから記録した打点は7。過去3年に至ってはわずか1だ。あまりにも激レアすぎる。正直、僕には縁のないものだと諦めていた。

直前の守りで2点を失い、再び3点差になって迎えた8回裏。木浪聖也のヒットと長坂拳弥の四球で走者がたまり、1番の植田に打順が回ってきた。これがシーズンなら近本光司の勝負強さに期待するところだが今日はオープン戦、近本はすでに交代している。ここで植田に打順が回ってきて喜んでいるのは、僕のような一部の植田ファンだけだろう。昨シーズン、植田が1軍の公式戦で立った打席はたったの3回。オープン戦とはいえ、打席に立つことが貴重なのだ。

2ストライクと追い込まれてからの4球目。バットを振り抜いた植田が1塁方向へ走り出した。カメラのファインダー越しに植田を見ていたから、打球どこへ行ったのか分からなかった。甲子園に響いたものすごい歓声で、植田がヒットを打ったのだと分かった。1塁の筒井壮コーチが腕を2塁方向へ向けている。長打コースだ。ベースを蹴り上げ、植田がどんどん加速していく。僕の席からは走る植田の向こう側にメガホンを叩いて喜ぶタイガースファンの姿が見えた。
スコアボードに「1」が刻まれて、甲子園に六甲おろしがこだました。

攻撃が終わり、植田がセンターの守備位置に就く。

うえだ!! うえだ!! うえだ!!

応援団の太鼓と植田コールが甲子園を包んだ。
10秒にも満たないような短い時間。僕にとってはものすごく長く、幸せな時間だった。
好きな選手がコールを受けている瞬間って、こんなにも気持ち良いんだ。

帽子を取って一礼する植田を見てから、コールが湧き起こっている観客席を見渡してみた。オープン戦にもかかわらず、ほとんどの席が埋まっている。この日の観客が41,129人だったことを、試合が終わってから知った。

試合後、少し余韻に浸りながらグラウンドの後片付けをしている光景を眺める。二次会をしているジャイアンツファンをのぞいて、ほとんどの観客が甲子園を後にした。緑色の座席がよく見える。これだけの場所にたくさんの人が駆けつけて、僕が応援している選手のコールをしたんだ。

試合は1点差で敗れ、結局タイガースは甲子園のオープン戦で1勝もできなかった。勝てなかったのは残念だけど、心は晴れやかだった。帰り道、甲子園で湧き起こった植田コールが、頭の中で何度も反響していた。

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