こじ開けろ 歓喜への扉【3/31 対ジャイアンツ戦○】
森下翔太の打球が左中間へ飛び、この3日間で溜まりに溜まった色んな感情全てを吹き飛ばした。みんなでつないだチャンスをものにし、東京ドームのレフトスタンドは歓喜した。
森下がどれだけすごいことをやったのか、あえて僕が書く必要もないだろう。SNSや動画サイトには先制3ランホームランのシーンがアップされているし、メディアからは森下に取材をして書いた記事が公開されるはずだ。
なので僕は、この先制劇の口火を切った選手のことを書きたい。
一生点が入らないんじゃないか、と錯覚してしまうほどの重苦しい雰囲気のなかで反撃のきっかけを作った、小野寺暖のことを。
開幕戦と開幕2戦目、小野寺は出番がなかった。タイガースから見て動きようがなかったこれまでの2試合を考えたら無理もない。だけど、今シーズンの小野寺が初めて対戦する相手が、よりによってジャイアンツの中川皓太になるなんて。
中川皓太。タイガースファンの僕はその名前を聞いただけで元気を吸い取られてしまう。ペナントレースの対タイガース戦ではもう6年近く点を取られていない難攻不落のサウスポーだ。開幕戦も8回に出てきて、特に見せ場らしい見せ場も作れず無失点に抑えられている。
悔しいけど、すごく良いピッチャーだ。
両チーム無失点で迎えた8回。中川が出てきた。タイガースも代打に原口文仁を送るも、ここは内野ゴロに倒れる。そして1アウト走者なしで代打に小野寺が起用された。
制球力の高い中川がストライクゾーンの四隅を攻めてくる。初球から3球連続ボールになった。重苦しい雰囲気の試合だ。こうなりゃ四球でもいい。
頼む、塁に出てくれ。
こちらの願いをあざ笑うかのように、中川が際どいコースでストライクを奪っていく。1ストライク目も2ストライク目も見方によってはボールと宣告されても不思議ではない球で、小野寺も1塁へ歩こうとしていた。もし僕が打席に立っていたら、気持ちを上手に切り替えられていただろうか。3ボールからフルカウント。
勝負の6球目。小野寺が引きつけてライト方向へ打球を放った。小野寺の得意技だ。ボールはセカンドの頭上を超えていった。チーム2本目のヒット。確かに6球目が1番甘いコースに来たけれど、そのボールを小野寺は1発で捉えてみせた。1塁の筒井壮コーチが笑顔で小野寺を称えている。代走の小幡竜平が送られ、この日の小野寺の出番は終わった。短くても、濃密な時間だった。
小野寺のヒットに近本光司も続く。そして最後は森下がホームランを放ち、チームに待望の得点をもたらした。重苦しい雰囲気は、完全に消えた。
完全に結果論だけど、小野寺が放ったあの当たりが鮮やかな先制劇のきっかけになった。この3日間で危うく染みつきかけた重たい空気を、小野寺らしい打球が切り裂いていった。
全ては、小野寺暖から始まったのだ。
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