見出し画像

豊田寛の打席を見落としたくない理由【6/18 対ファイターズ戦◯】

セ・パの交流戦の最終戦は、思いがけない形で終わった。1対1で迎えた延長11回、1アウト1,3塁のチャンスで相手バッテリーの守備が乱れた。その隙を突いた植田海がサヨナラのホームを踏んだ。植田は代走として11回から出場し、相手の内野守備が乱れる間に1塁から3塁を陥れている。

足でプレッシャーをかけられる植田がその力を大いに発揮して掴んだ勝利といって良いだろう。応援している選手が活躍するのは嬉しいけれど、この選手がサヨナラのチャンスを作ってくれたことが嬉しかった。

豊田寛。
ついに、ついに甲子園で彼に光が当たったのだ。

社会人野球の日立製作所から入団して、1軍出場は1年目のわずか5試合。しかも彼に出番が回ってきたタイミングは、チームが開幕から大型連敗を続けていたときだった。

今だから分かる。あのときはチームに余裕がなかった。豊田の実力が発揮される瞬間を待つほどの猶予がなかった。運がなかった。
まさか、そこから2年間1軍に上がれないなんて。プロ野球に平等を求めるのは酷だけれど、なんて険しい世界なのだろう。

プロ1年目の豊田

誤解のないように言うと、いつしか僕の中で豊田はこんな印象の選手になった。
2軍の試合をいつ見に行ってもそこにいる選手―

タマスタ筑後に行っても鳴尾浜に行っても、年下の選手に混じって暑い日差しの下でバットを振り、白球を追いかけていた。
だからこそ、彼が少しずつ良くなってきていることも分かった。2軍で3割を超える打率を残せるようになったのは、打席の中での対応力が良くなってきたからだろう。ボールを引き付けてライト方向へのヒットが多くなった。

延長11回の代打。タイガースがリードを守って勝っていたら、豊田の出番はなかっただろう。出場できるかどうか分からない状況で出番に備える。代打は本当に大変だ。
2球目。アウトコースの速球を豊田が弾き返した。打球はライト寄りのセンター方向に落ちた。2軍で何度も見てきた打球だった。サヨナラのランナー出塁に甲子園が湧いた。
筒井壮コーチとタッチを交わして、代走で出てきた植田と入れ替わる。豊田に大きな拍手が送られていた。

1年目の出場は5試合。2年目は出場なし。3年目の今季、ついに才能が開花したなんて見方をしている人もいるかもしれない。
でも僕はそう思わない。このヒットは豊田がタイガースで少しずつ積み上げてきたものが形になった何よりの証だ。1軍に上がってきて、ほんの僅かしかないチャンスを、自分の腕で掴み取ったのだ。
社会人経由で入団して3年目。過去2年間でヒットはなし。残された時間が長くないのは、豊田が1番分かっているはず。

今、豊田は野球人生の全てをかけて打席に立っている。だからこそ、1つたりとも見逃したくないと思うのだ。

この記事が参加している募集

#スポーツ観戦記

13,533件

#野球が好き

11,173件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?