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ほえろ右京 勝負を決めろ【6/16 対ホークス戦○】

前川右京が速球を捉え、バットがくるりと宙を舞う瞬間が、遠いレフトスタンドからでも見えた。打球が一直線に伸びていき、僕がいたレフトスタンドは間もなく地鳴りのような歓声で覆い尽くされた。
前川の第2号満塁ホームラン。福岡に来たタイガースに、3戦目にしてついに先制点が入った。
高卒3年目にして既に期待しかない打球を飛ばし続けている前川。僕もまた、彼の打棒に魅了されている。

福岡に転勤して最初の秋。タイガースの2軍がウエスタンリーグで優勝した。2軍の連勝記録を更新して勢いに乗った年だ。ファーム日本選手権は宮崎県で行われる。
埼玉からなら遠すぎて行く気にならないけど、福岡からなら行けるかもしれない。そんな軽いノリで高速バスを申し込んで、僕は初めて宮崎を訪れた。(福岡から宮崎もまあまあ遠かったことに気づくのは別の話)

春季キャンプも行われるくらい立派なひなたサンマリンスタジアム宮崎。そこで僕は初めて見たのだ。前川右京の放物線を。

西日がグラウンドに差し込む中、白いボールがライトスタンドに飛び込んでいった。当時高卒1年目の前川にとっては、この試合に出るだけでもすごいこと。なのに、この大一番で結果を残した。この日のホームランも、バットは美しく中を舞っていた。

あれから2年後。前川は1軍の選手として福岡にやって来た。前に宮崎で見たときより体も大きくなった。
初回の攻撃、いきなり満塁で打席が回ってくる。そして3球目。

「行け!」
「入った!」
「よっしゃああああああ」

僕の座っている席から色んな声が聞こえてきた。先発の才木浩人を援護する先制満塁ホームラン。強力ホークス打線とはいえ、今の才木の実力を考えたら試合の行方を決める一撃になった。そして、その通りとなった。
試合後のヒーローインタビューはもちろん前川だった。受け答えの内容や表情には、まだあどけない感じが残っている。だって、まだ21歳だ。
そう、まだ21歳なのだ。

福岡に転勤していなかったら宮崎でのホームランも今日の満塁ホームランもきっとこの目で見ることはできなかった。
前川のおかげで、福岡の街が少し好きになった。

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