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僕たちが青柳晃洋をエースと呼ぶ理由【3/31 対ベイスターズ戦○】

京セラドーム大阪のまっさらなマウンドに、背番号が17になった青柳晃洋が上がった。先頭の佐野恵太を3球で打ち取ると、ひときわ大きな歓声が響いた。初回は2つの奪三振を含む3者凡退。ちょっと飛ばし気味で投げているのかなとも思った。
無理もない。1年前から投げたくてしかたなかった開幕戦のマウンドだったのだから。

去年の開幕戦、青柳は1度は開幕投手に指名されながらその役割を全うできなかった。開幕数日前に新型コロナウイルス感染の陽性反応が出た。
自分が投げるはずだった試合で打たれて悔しがることすらできない。序盤のリードがみるみるなくなっていく去年の開幕戦を、青柳はどんな気持ちで見ていたのだろう。

チームにとって大切な開幕戦。青柳の投球からはそれ以上の気迫を感じた。この日何度も空振りを奪った高めの速球。去年も意図的に使っていたボールが、これまで以上に威力を発揮しているように見えた。ベイスターズも開幕は青柳と対戦することは早い段階から予想して準備していたはず。その想像を、青柳が超えていった。三振を奪うたび、青柳は小さく吼えていた。

6回の守りでピンチを迎えたところで、岡田彰布監督がベンチから出てきた。去年までの青柳のことを考えると少し早い気もしたけれど、開幕戦の緊張感もあるし、まだ始まったばかりだし、あまり飛ばさないようにっていうベンチからのメッセージにも思えた。

けれども、青柳はぜんぜん満足していなさそうだった。まだまだやれる、もっと投げたいって気持ちが、顔に出ていたように見えた。
6回途中まで投げて無失点。しかもスクイズで打点も挙げた。はじめての開幕投手でこの内容なら上出来すぎる。でも、青柳が目指しているところはもっと上だったのかもしれない。厳しい表情のまま、青柳はマウンドを降りていった。

後続を岩崎優に託したあと、青柳はベンチの最前列にいた。さっきまでの厳しい表情は消え、味方を応援する顔に変わっていた。岩崎がタイムリーヒットを打たれて点を失っても、青柳はベンチの1番前で手を叩き、グラウンドに向かって何か声を発していた。

マウンドでは良い意味で自分本位。でもベンチに下がったら他人本位。こうして書くのは簡単だけれど、青柳のようにみんなも振る舞えるかっていったらぜんぜん簡単じゃない。

マウンドでの青柳とベンチでの青柳。一見相反しているように見えるけど、目の前の試合に勝ちたいがゆえの行動という点で共通している。どちらか片方では足りない。ベンチで機嫌を悪くしたら周りの雰囲気にまで伝染するし、孤独なマウンドで弱さを見せたら相手打線に飲み込まれる。
すべては自分の持てる力を勝利に注ぐために。

自分のためにマウンドを守り、みんなのために惜しみないエールを送れる。
そんな姿に心惹かれるから、僕たちは青柳晃洋を"エース"と呼ぶ。

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