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植田は本塁を取りにいく【4/16 対ジャイアンツ戦▲】

1アウト2塁。打球がピッチャー前に転がった。
前に飛んだ打球に反応して2塁ランナーが飛び出してしまった。

走者にとっては大ピンチな場面。の、はずなのに、ランナーの植田海はどこか落ち着いているように見える。追い込まれている感じが全くない。
まるで「いつでも来なよ」と言わんばかりに、ボールを持っているピッチャーの山崎伊織が来るのを待ち構えているようだ。植田はよく見ないと分からないくらい小さくジャンプしていて、走る機会をうかがっている。ギリギリまで山崎を引きつけて、そしてタッチされないギリギリのタイミングで走り出した。

植田が挟まれている間に打者の木浪が2塁に到達した。植田は時間を稼いで最低限の仕事をした、となるはずだが、これで終わらなかった。
ボールがセカンド方向に送られた瞬間、植田がスピードを上げる。慌ててジャイアンツ内野陣が植田をアウトしにかかる。だが植田はタッチをかわして3塁に滑り込んだ。塁審の手が横に大きく広がり、甲子園に大きな歓声が響く。結果はオールセーフ。植田の揺さぶりが相手のミスを誘い、1アウト2,3塁のチャンスになった。

ヒットじゃなくても点が入る場面、こういうときに代打で出てくるのは糸原健斗だ。前進守備を敷いていたライトのミットに、低い弾道でボールが収まる。ギャンブルスタートを敢行していた植田が一度ベースに戻ってからスタートを切った。ホームベースへ頭から突っ込む。球審はセーフのジャッジをした。
ジャイアンツの阿部慎之助監督がリクエストを要求したので、植田が本塁へ滑り込んだシーンが何度も再生される。よく見ると左手を瞬時に引っ込めて、右手でホームベースをタッチしていた。3塁から本塁に走るとき、左手は本塁に近いかわりにタッチされやすくなる。

だからあえてその左手を引いて、捕手のミットから遠くなる右手でのタッチを選んだ。さらに、体を「く」の字にひねるようにして、捕手からタッチされないようにしている。ほんのわずかな工夫なのかもしれない。けれども、タッチのタイミングが間一髪だっただけに、このわずかな工夫がセーフの判定につながったことは間違いない。

Twitter(X)の試合速報では「海くん」呼びされていたが、植田も今年でプロ10年目になった。金本監督が一時ショートのレギュラーとして起用したのを除いて、植田の役割はほぼ変わっていない。代走からの守備固め。この足でプロの世界を生き抜いている。単純な脚力があればこの役割は務まるのかといったら、そんなことはない。ピッチャーの動きや相手の守備位置を見る観察眼、状況に応じて瞬時に次の行動を選択する判断力。そして最後は、これと決めたら迷わず次の塁へ進む思い切りの良さ。思いつく限りでもこれだけの要素がなければ超一流にはなれないはずだ。

長々と語ってしまったけれど、要するに僕が1番応援している選手が最高のプレーをしてくれたって話だ。

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