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自信、積み重ねて 2つの見逃し三振【4/1 対ベイスターズ戦○】

延長12回、近本光司の打球がセンターの横を抜けていった。糸原健斗が決勝のホームを踏む。みんなが近本のもとへ駆け寄った。この瞬間、スコアボードに0を刻み続けた8人のリリーフたちの頑張りが、やっと報われたように思えた。彼らの踏ん張りなくして、この日のサヨナラ勝利はなかった。だから、最後のアウトを見逃し三振で奪って吼えた村上頌樹と富田蓮のことを書き残しておきたい。

2番手・村上頌樹(むらかみ しょうき)。彼の結果次第ではベイスターズ打線の勢いは最後まで止めらなかったかもしれない。

プロ3年目になる村上の主戦場は2軍だった。2軍ではほぼ敵なしで、ルーキーの年も2年目も2軍の投手タイトルを獲得している。大学1年生の頃から試合に出ていた東洋大学時代の評判通り、2軍とはいえプロの打者相手に少しずつ結果を残していた。(ちなみに僕の母校は当時の村上に大学リーグ初完封勝利を献上し、リーグ最下位が決まった)。

昨年まで投手コーチをしていた金村暁が解説をしていたオープン戦で、村上のことを語っていた。
「いい球を投げていると報告はあったけど、1軍に来ると本来の実力が出せなかった」。
その言葉を聞いて、1軍のマウンドで不安そうにしていた村上を思い出した。

この日の村上は6回表に2番手で登板した。最大4点あったビハインドを取り返した直後だ。先頭の桑原将志に2ベースヒットを打たれ、いきなりピンチを背負った。ほんの少し、不安そうな顔があらわになったけれど、腕を振る強さは変わらなかった。150kmに迫る速球と、鋭く曲がるカットボールで、空振りを奪う。2アウト3塁までこじつけた。代打の大田泰示には全球ストレート。低めに投じられた直球が垂れることなく、梅野隆太郎のミットに収まった。球審の見逃し三振のジェスチャーから一瞬遅れて、球場が湧いた。村上が初めて0点に抑えた1軍のマウンド。プロ入り初めてホールドも付いた。

8番手・富田蓮。村上から始まったリリーフ陣のバトンの最後は、ルーキーに受け継がれた。

WBCの強化試合で大谷翔平にホームランを打たれた印象で富田のことを覚えた人も多いかもしれない。伊藤将司とも、大竹耕太郎とも異なる独特の投球フォームが特徴だ。球速はさほど出なくても、特徴的なフォームと正確なコントロールを前に、相手打者は困惑する。

富田のプロ第1球。坂本誠志郎が構えたアウトコースに直球が決まった。その後も続々とアウトコースにボールを投げ込んでいく。1発勝負の世界である社会人野球も、このコントロールで生き抜いてきたのだと理解できた。長打や1発が許されない延長戦で、この制球力は武器になる。そもそも、プロ初登板が延長12回なのだ。本来の実力を発揮するのが、どれだけ大変か。
宮崎敏郎に投じた4球目。球審が見逃し三振を告げた。最後のボールもアウトコースにこれ以上ないくらい決まった。プロ初の奪三振が宮崎からなんて、最高にかっこいいじゃないか。

村上、岩崎優、浜地真澄、湯浅京己、石井大智、加治屋蓮、そして富田。7人のリリーフたちによる無失点リレーがここに完成した。繰り返しになるけど、彼らの頑張りがなかったたら、その後の歓喜は訪れなかった。

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