見出し画像

その鋭い打球をずっと待っていた【6/21 対ベイスターズ戦◯】

小幡竜平という選手は本当に強い。試合中は表情を変えず淡々とプレーしている印象を持つかもしれないが、表に出ない芯の強さを感じる時が何度もある。同じショートの木浪聖也が骨折で戦線を外れてからまだ3試合目。それなのにプロ2回目のサヨナラ打を放ってしまうのだから。
やっぱりこの選手は本当に強い。

試合前の打撃練習。僕が見に行く試合は大半がビジターゲームだから、早めに来てタイガースの選手が練習する様子を自席で見学している。佐藤輝明や森下翔太が力強いスイングで打球をどこまでも飛ばす姿は見ていて気持ちが良いし、やっぱりプロ野球選手すごいなって実感する。
選手が少しずつ引き上げていって、練習も終わりに差し掛かってきた頃、彼らに負けないくらい打球をスタンドインさせている選手がいた。

小幡だった。

どちらかというと守備走塁を期待されている選手の小幡がスタンドインを連発している。とはいっても強引に振っている感じではない。いつも通りの打撃フォームでスイングして、捉えた打球がそのままライトスタンドに飛び込んでいる。

小幡がこんなに力強く打っていること、普段の試合を見ているだけでは分からなかった。小幡がまだ自分の可能性を諦めていないこと。試合だけじゃ分からなかった。

9回2アウト1,2塁。小幡が打った球の球速は150kmだった。相手投手のパワーに負けず引っ張り込んだ打球が、ファーストの横を抜けていった。ファーストのT.オースティンもダイブしたけれど、間に合わないくらいの速さだった。

2塁走者の植田海がヘッドスライディングでホームに突っ込む。球審の手が横に広がった。もう小幡は歓喜のウォーターシャワーでもみくちゃだった。

歓喜の瞬間は、自分の可能性を信じられる選手にだけ訪れる―
ボールは上がらなかったけれど、練習の時に見た鋭い打球と同じだった。



2アウト1,2塁。
外野は超前進守備。
引っ張りの強い打球がライトのほぼ正面。

これだけ不利な条件が揃っているのに躊躇なく3塁ベースを蹴って本塁を陥れられるのは植田しかいない。

確かに本塁突入のタイミングはアウトだった。ただし「送球が狂いなく正確にバックホームされ、キャッチャーが一切の無駄なくランナーにタッチできたとき」という前提で。

テレビで見ている僕らファンでさえ緊張するのだから、最高の技術と精神力を持つプロ野球選手でもサヨナラ負けのピンチは緊張するはず。
そんな状況で「バックホーム→捕球→タッチ」の一連の動作を10回中10回正確にできる選手は果たしてどれくらいいるだろうか。ちょっとでも動きが遅くなったり送球が逸れたりすればセーフになる可能性がぐっと上がる。

植田がホームインしたら試合が終わってしまう。その重圧が相手の守備をちょっとずつ重たくし、ミスが出やすい状況を作っていく。
藤本敦士コーチが腕を回したのは決して博打じゃない。植田が相手に与えるプレッシャーに託したのだろうと思った。

そして、植田がサヨナラのホームを踏んだ。キャッチャー・山本祐大が捕球しながらタッチにいく動作の最中で、ミットからボールがこぼれた。

18日のファイターズ戦でも植田はサヨナラのホームを踏んだ。ゲッツーを狙った相手内野手のエラーで3塁へ進み、バッテリーミスの間に本塁を陥れた。

その足で相手に重圧をかけられる。
僕が応援している植田は、そういう選手だ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?