緊張の糸が張り詰める中で【5/1 対カープ戦▲】
9回は両チーム共に無得点に終わり、勝負は延長戦に突入した。延長10回のマウンドに上がったのは、今季現役ドラフトで加入した漆原大晟だった。
タイガースは6回から継投策に入っていて、漆原の前に4人の投手が登板している。ブルペン陣がよく粘ってくれているけれど、こういう展開の試合は回を追うごとにその緊張は大きく、重くなっていく。
漆原は先頭打者に四球を出した。続く打者に送りバントを決められ、サヨナラの機運が高まるカープファンから歓声が起こる。さっき投球練習を終えたばかりな気がしたのに、もうピンチだ。タイガースに来てからの漆原がこんなしびれる場面で投げたことはなかった。テレビで見ている僕も自然と力が入る。
一打サヨナラのピンチでカープの矢野雅哉が打席に入る。初球のストレートがストライクになった。わずか2球で矢野を追い込むと、最後は得意球のフォークで空振り三振に仕留めた。キャッチャーの梅野隆太郎がどんな球も止めてくれるから、漆原も思いっきり腕が振れる。
でもまだピンチは続く。次の打者は會澤翼だ。2ボール1ストライクとなった4球目。渾身のストレートが外角低めに投じられた。球審の右手が挙がる。良い球だ。直球が良いところに決まれば、後に投げるフォークも威力を増す。
フォークボールに會澤のバットが空を切り、漆原が力強くミットを叩いた。救援陣がつないできたバトンを、漆原もまた次につなげた。
ここまでの漆原が起用されていたシチュエーションと言えば、大量リード時またはビハインド。仮に打ち込まれたとしても勝敗に大きく影響しない場面だった。だがこの日は違った。1点取られたら即ゲームセットだ。
実際、漆原は先頭の出塁を許し、一打サヨナラのピンチを背負った。点を取られたくないという思いが出た結果だろう。だがそこから漆原は逃げなかった。ピンチになっても自分を貫いて腕を振った。
これまでのシチュエーションとは違うところでの出番だ。漆原にとっても大事な登板だったはず。だからこそ抑えてほしいと願っていたし、抑えてくれて嬉しかった。
もしタイガース・漆原の野球人生が良い方向に変わっていくとしたら、この日投げた16球がきっかけになるのかもしれない。いや、きっと良い方向に変えてくれるはず。だって、この厳しい場面で自分を見失わずに強いボールを投げ込めるのだから。まだまだ強くなれる。
この日、漆原はタイガースに入って初めてのホールドを記録した。
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