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ゴリパラ見聞録の聖地巡礼をしたら、なぜか巡礼先の店主と一緒に番組を見ることになった話

水曜どうでしょうを見て育ち、友人とサイコロの旅をして青春を過ごした僕が、「ゴリパラ見聞録」にハマるのは時間の問題だったのかもしれない。
ゴリパラ見聞録とは、九州地方を中心に活躍するゴリけんさん、斉藤優さん、矢野ぺぺさんの3人が、視聴者から行きたい場所を募って全国各地を旅する福岡ローカル番組だ。水曜どうでしょうと同じく移動中の会話が番組の多くを占めており、よく言えば3人の率直な人柄が、言葉を選ばず言うならポンコツで姑息で邪悪な人柄が伝わってくる内容になっている。

※このnoteは福岡ローカルで放送されている「ゴリパラ見聞録」の2月16日深夜に放送された回を見てからのほうが細かい背景含めて楽しめると思います。23日まででしたらTVerで見られます

https://tver.jp/series/sr9veqmphf


2024年2月10日と17日の放送でゴリパラご一行が向かった大分県の「茶房たかさき」。偶然にも僕は2月16日,17日で人生初の大分・別府旅行を計画していた。

「ええっ、僕も来週大分行くんだけど」

10日の放送で旅の行き先が大分に決まったとき、驚きを隠せなかった。
調べてみると茶房たかさきは別府駅から徒歩15分くらいのところにあるという。

ゴリパラ見聞録は15年も続いている番組だ、今後何かの縁で3人が訪ねた場所に僕も行くことがあるかもしれない。だが放送直後に番組に登場した場所に行けるチャンスはおそらくないだろう。番組が放送されたことを伝えたら取材当時の裏話も聞けるかもしれない、そんな下心があったことは否定しない。

だがこれも何かの縁だ。
僕は大分旅行の行程に茶房たかさきを組み込むことにした。

早起きして日の出を見に行った

前日の夜に別府で夜を明かし、朝食を済ませてから目的地に向かう。別府駅から(方角)に歩いて約15分。茶房たかさきは一軒家が並ぶ穏やかな場所にあった。番組を見ていなければ、ここに店があるなんて思いもしなかっただろう。
僕が店にたどり着いたとき、店主のマスターは庭の草木に水をやっていた。
テレビで見た印象通りで、穏やかそうな人だ。

店に入ると6人ほどが座れる楕円形のテーブルに案内される。店内にはありとあらゆる雑貨が置いてあり、見ていて飽きない。おそらく日本人の心にある「ふるさとの実家」を具現化すると、こんな感じになるのだろう。

店内の様子

案内された席に座って、メニューを眺める。斉藤さんらが頼んだアイスコーヒーを注文することにした。外は快晴で、ここに来るまでの道のりが暑く感じるくらいだった。

「どこからいらしたんですか?」
優しい声でマスターが話しかけてくれた。大きなリュックサックを背負ってきたから、この辺りの人ではないと思ったのだろう。

「そうですか福岡からでしたか。ここは温泉巡りの場所にもなっているので、関西や関東からもお客さんが来てくださるんですよ。『Youは何しに日本へ?』が取材に来たときもあります」

ゴリパラの3人が訪ねたときと同じように、マスターが答えてくれた。
満を持して本題に入る。

「ついこの前もテレビでやっていましたよね?それを見て今日来たんです」
「ええーっと、そうだ来ました来ました。男の人の3人組で……」
「それです!福岡でやっているゴリパラ見聞録って番組なんですけど、大分ではやっていないっぽいですね」

なんでもゴリけんさんは前にこの店に取材で来たことがあるらしい。ゴリさんのことは知っているようだった。



「あのー、TVerってやつあるじゃないですか。あれで見ることはできないのですか?」
「やってますやってます。最新話しか見られないですけど……」

マスターはTVerをスマホで見る方法が分からないようで、僕が操作しながら教えることになった。まさか今日初めて出会ったマスターにアプリの操作を教えている。マスターとの距離の近さも、この店が持つ魅力だ。実家のような雰囲気が漂う空間でスマホの操作を教えたら、実家のような雰囲気がますます強くなっていく。まるで両親にスマホの操作を教えている気分になる。
無事アプリがダウンロードでき、マスターのスマホでゴリパラが見られるようになった。

「この再生ボタンを押せば見られますか?」

えっ今見るの。
てっきり僕が帰ってから見ると思ったんだけど。


ここで1つ疑問が浮ぶ。果たしてマスターはゴリパラを見て楽しめるのだろうか?

僕はゴリさんも斉藤さんもぺぺさんも好きだから、3人がわちゃわちゃやっている様子を見て爆笑するし元気をもらっている。だが彼らを知らない人にとってあの番組は「中年の芸人3人が自分勝手に自由に振る舞う30分間」でしかない。

しかもよりによってこの回の放送は芸人のWエンジン・えとう窓口さんの家にお邪魔して好き勝手やり、その後は元マネージャー泥谷さんの運転代行の代金を巡ってガチじゃんけんするという、まあまあな醜態晒し会。訓練されたゴリパラキッズと見る分には問題なくても、今日初めて会った店のマスターと二人きりで見るには難易度が高すぎる。

下手をすれば、3人の印象が店に来たときより悪くなってしまう可能性だってある。良かれと思って番組の見方を教えた結果、ゴリパラのイメージダウンにつながってしまうことだけはどうしても避けたい。

しかしマスターのスマホにはもう再生画面が表示されている。ここまで来て「見られないですよ」とは言えなかった。僕とマスターふたりきりのゴリパラ鑑賞会がここに始まろうとしていた。よし、覚悟を決めよう。僕はマスターを拝借して、再生ボタンを押した。

ペペロンチーノ!!
ダメだ!!
ゴリゴリゴリけんです!!
この番組はしがない芸人たちがあなたの願いや思いを叶えるために……


ワクワクしながら見るいつものオープニングがこんなに緊張するなんて。間違ってもこんな緊張しながら見る番組ではない。肩の力を抜いて、頭の中を空っぽにしても楽しめるのがゴリパラなのだ。

茶房たかさきが出てくるのは番組の最終盤。そのシーンが来るまでじっと待つ。マスターはえとう窓口さんのことを知っていた。どうやら大分でのテレビ番組にはちょくちょく出ているらしい。
えとうさん宅の訪問パートが終わった。マスターはずっと不思議そうな表情で番組を見ている。マスターは悪くない。初めて見るの番組の後編、しかも出演者はひとりしか知らない。彼らの関係性すら分からない。そんな状況でどうやって笑えというのだ。

こんなことなら最初から「お店が出てくるところまでスキップしますね」と言えば良かった。とき既に遅し。しかし途中まで見ていきなりスキップしたら妙に思うに違いない。それにマスターが興味を持って番組の事を知ろうとしている可能性だってある。
それはゴリパラキッズの僕としては嬉しいけど、果たしてあの回の放送を見て3人に良い印象を持ってくれるかは……はっきり言って望み薄だ。


過去にないくらい緊張のまなざしで番組を見ているその時、マスターの口が開いた。

「これって動画みたいに飛ばせないの?」

た、助かったああああああああああああ

ゴリさん斉藤さんぺぺさんの名誉はこうして守られた。


「びっくりしたんですよ、『あした取材させてくれませんか?』って突然電話が来て。いつも取材を受けるときは1ヶ月くらい前に連絡をもらうんですけどね」
番組の趣旨を知らないのであれば、そのようなリアクションになるのも無理はない。
茶房たかさきが映るシーンはほんの数分だったが、こうして無事放送されたところをお見せできて良かった。

アイスコーヒーおいしかった

番組を見終わった後は名物の温泉に入らせてもらった。入る前にマスターが「熱いのとぬるめなの、どちらがいいですか?」と聞いてくれた。こういうちょっとした気遣いが嬉しい。ぬるめに調整された温泉は気持ちの良い温度だった。湯は透明だがとろみがあって、腕に何度もお湯をかけてさすりたくなる。マスターが入れてくれるコーヒーを飲んで、温泉であったまる。ここだけ時間の流れがゆっくりになっているように感じた。この場所を知るきっかけをくれたゴリパラに感謝しつつ、一人きりの温泉を満喫した。

「別府はいいところですから。ぜひまたいらしてくださいね」

マスターとの別れ際に交わした挨拶も、温泉と同じくらいあったかかった。また来よう。

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