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佐藤輝明はもう立派な先輩になっていた【9/29 対ベイスターズ戦●】

チャンスで空振り三振に倒れた森下翔太がタオルで顔を覆っている。顔を上げると目が充血して真っ赤に腫れていた。泣くのを必死に抑えようとしているのが伝わった。抑えたくても止まらない、自分でコントロールできなくなってしまっているようだった。

J.ミエセス、近本光司、中野拓夢の3連打で作った無死満塁の大チャンス。1点でも入れば同点となる場面で森下に打順が回ってきた。初球のボール球を空振りし、ストライクゾーンの球には手が出ない。良かったときの打席の内容とは程遠かった。5回、タイガースは無得点で攻撃を終えた。
感情が爆発したとき、どんなに我慢しようとしても涙は止まらない。そのことを僕も知っているから、森下のことを責める気にはなれなかった。

選手が悔しい思いをして落ち込んでいるとき、チームを引っ張る年齢層の選手たちがベンチで話を聞いて励ましてくれる。タイガースの場合、こういった役割を自らやってくれるのは木浪聖也や坂本誠志郎たちだ。 けれどもこの日、涙を流して落ち込む森下の横にいたのは佐藤輝明だった。

僕が佐藤輝に勝手に抱いていた印象は「可愛らしい後輩」。
去年は同じ大学出身の糸井嘉男にべったりで後ろを付いていくイメージを持っていた。他球団と比較して若い選手が多いタイガースの中でも、生粋の後輩キャラ。そんなところが憎めない存在だったし、頼りになる先輩たちがたくさんいるのだから、それで良いと思っていた。

タオルで顔を押さえる森下の横で佐藤輝がバットを持ちながら話している。本来だったらすぐに打席が回ってくる関係で佐藤輝もネクストバッターズサークルに向かうはずなのだが、森下が三振に倒れた直後にベイスターズのピッチャーが代わった。少しのあいだ時間ができた。
森下と話しながら、佐藤輝はスコアラーに持ってきてもらった資料に目を通している。おそらく交代した投手のデータだろう。一打逆転のチャンスは続いている。自分の出番に備えて集中したい場面だったかもしれない。それでも、佐藤輝は落ち込む森下を気にかけていた。

プロ野球選手としてあの行動が正しい振る舞いだったかのかどうか、僕には分からない。でもひとりの人間として、つらい思いをしている仲間に寄り添うことを選んでくれたことが嬉しかった。しかも今まで仲間に支えられてきた佐藤輝がやってくれたから、嬉しくないはずがない。

内容までは分からなかったけれど、森下は落ち込みながら佐藤輝の話を聞いていた。ゆっくりうなずきながら聞いていた。横で話す佐藤輝もまた、ルーキーの年にまったくヒットが出なくてもがき苦しんだ。佐藤輝だからこそ伝えられることがあるはず。

つらいとき、そのつらさを一緒に分かってあげようとする選手たちが何人もいる。 そんなタイガースが、僕は大好きだ。


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