見出し画像

背番号127のスタート【2/20 対サムスン戦○】

タイガースは左腕の投手が多い。昨季2桁勝利を達成した伊藤将司、大竹耕太郎。クローザーの岩崎優。リリーフの岩貞祐太に島本浩也、桐敷拓馬、及川雅貴。贔屓目が入っていることは自覚しているが、これほどサウスポーが充実しているチームはそうそうないはずだ。嬉しい悲鳴である一方で、この状況は他の左腕投手が入り込む余地があまりないことを暗に示している。
それでも僕は、このピッチャーが彼ら左腕投手たちに肩を並べる日を待ち望んでいる。

川原陸。背番号127の育成選手だ。
長崎の創成館高からドラフト5位でタイガースに入団したが、肩を故障したこともあって今は育成契約となっている。故障した年は2軍でも投げられなかった。

川原を球場で見たとき、その手足の長さに驚いた。身長186cmはタイガースにいる左腕投手の中で最も高い。だが公式のプロフィール以上に体が大きく感じたし、腕は柔らかくしなるムチのようだった。分かりやすい表現を使うなら「スケールの大きい投手」。そんな印象を抱いた。

春季キャンプは2軍スタートだった川原は、シート打撃や紅白戦でアピールを続け、この日の先発機会を与えられた。韓国プロ野球のサムスンライオンズ戦とはいえ、1軍メンバーで行う練習試合に背番号127の川原が先発する。支配下登録復帰に向けて燃えないはずがないだろう。

川原の魅力はまっすぐだ。相手がストレート待ちと分かっていても押し込める力がある。146~148kmくらいの球速に加えて足の踏み込みが深く、打者から見て前の方でボールがリリースされる。「球持ちが良い」と表現されるボールだ。この日もサムスンの選手相手にストレートを投げ込んでいく。ストライクゾーンの直球で押し込み、初回を0に抑えた。
2回、サムスンの先頭打者は昨年までライオンズでプレーしていたD.マキノン。川原の実力をアピールするのにこれ以上ない相手だ。2球連続でボールになったが、マキノンもストレートで押し切り、ショートゴロに詰まらせた。
このあと長打を浴びて得点圏に走者を背負うも、打者のインコースにストレートを投げ続けた。相手打者が気迫に押されているようにも見えた。
直後、前川右京のホームランで2点が入る。ベンチ前でキャッチボールをしている川原の表情がより一層鋭くなった気がした。

結果、川原は3イニングを投げた。打たれたのは2回に浴びた2ベース1本のみで、無失点だった。最後の打者をファーストゴロに打ち取ると、川原はグラブを2回叩いた。その仕草から、この日にかける思いと結果を残せた安堵の気持ちが伝わってきた。
支配下登録復帰へ、1軍登板へ。やっと川原がスタートを切れた。

僕のようなファンが想像する以上に、限られた枠を巡る争いは厳しい。川原の場合はまず支配下登録を勝ち取る争いが待っている。そこから1軍の左腕投手に加えたいと思わせるようなアピールを続けた先に、1軍昇格が待っている。文字にするのは簡単だけど、その道は長く険しい。

でも、このピッチャーが満員の甲子園で投げる姿を、僕はまだ諦めたくない。川原の大きい背中に、あの大きい背番号はふさわしくない。
この日のピッチングを見て、僕はそう強く感じたのだ。

この記事が参加している募集

#スポーツ観戦記

13,593件

#野球が好き

11,296件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?