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チャンスは平等じゃない だからこそ応援したくなる【7/13 対ベイスターズ戦●】

ベンチ外。
1軍の試合でたまに聞くこの言葉の重みを、僕はよく分かっていなかった。

日本のプロ野球で1軍に登録できる選手の数は31人。そのうち試合のベンチに入れる選手は26人だ。つまり、1軍にはいるけど試合には出られない選手が最大で5人出てくる。
※2023年現在のルール

大抵の場合はローテーションに入っている投手のうち、その日先発しない投手がベンチを外れる。先発する投手ひとりを除けばあとは5人だから、先発投手全員をベンチ外にすることで、上限の26人に収めることができる。

(例)
西:先発
大竹:ベンチ外
村上:ベンチ外
伊藤将:ベンチ外
青柳:ベンチ外
才木:ベンチ外

けれども、直近の先発予定がないなどの理由でローテーション投手の代わりに別の選手を1軍登録した場合、少し事情が異なってくる。オールスターゲームが近づいて変則的な日程になっている今は特に起こりやすい事象だ。

(例)
西:ベンチ外
大竹:先発
村上:ベンチ外
伊藤将:ベンチ外
青柳:登録抹消→野手登録
才木:ベンチ外

この状況となった場合、先発投手に加えて1人選手をベンチ外にしないといけない。ローテション投手を6人登録している状況と比べて選択肢は増えているが、その分使わない選手を1人決めることになる。
タイガースの場合、ベンチ外になったのは小野寺暖だった。

倉敷マスカットスタジアムで行われたベイスターズとのカード初戦。。ベンチ外になった小野寺は一通りの練習を終えた後、ひとり新幹線に乗って自宅に戻ったのだという。スポーツ紙のニュースで知った。

ベンチ外の選手は試合には出られないけれど、ロッカーや控え室みたいなところで戦況を見守っている、僕はてっきりそういうものだと思っていた。先に戻って体を休めてくれ、という球団の気遣いなのだとは思う。でもまさか、試合が行われている球場にすらいられないとは。
チームのみんなはこれから始まる試合に向けて集中を高めている。そんな中、小野寺は自分の荷物をまとめて家に戻る。その姿を想像したら、なんだか僕まで悔しくなってきた。仕方ないのは分かっているけれど。

小野寺はカード2試合目もベンチ外。ベンチスタートの選手と違って、どんなことがあっても試合に出るチャンスは、一切ない。1軍なのに、1軍のようじゃないみたい。

勝ち越しを決めて迎えたカード3試合目。小野寺は「3番・センター」でスタメンだった。ベンチ外の選手がいきなりスタメンに抜擢されるのも珍しい。それまで出ていたS.ノイジーが体を痛めた。その代わりに小野寺が抜擢された。

小野寺は頑張った。プロ2度目となる猛打賞。ヒットを打てなかった打席でも四球を選び、全打席で出塁した。3番打者としてこれ以上ない働きだ。
先日のスワローズ戦、小野寺はクローザーの田口麗斗からタイムリーヒットを放った。味方の併殺で反撃ムードが沈んだ状況でのヒットは価値がある。

プロ野球の試合を見てきたからこそ分かる。この世界で与えられるチャンスの数は平等じゃない。
例えば、誰もが大成を期待しているドラフト1位のスター候補と、支配下選手のドラフトが終わった後にひっそり指名された育成選手に回ってくるチャンスの数は一緒ではない。スター候補生にかけてきた時間やお金のことを考えれば、それはある種当然のこと。会社が予算も人材もたくさん確保したビッグプロジェクトを優先させるのと同じだ。

見方によっては、残酷に映るかもしれない。けれどこういう一面があるからこそ、少ないチャンスを掴もうとしている選手のことは「頑張れ」って気持ちになるし、もっと応援したくなる。

試合には勝てなかったが、小野寺は3安打を放った。その存在感は高まりつつある。きっとこれでしばらく出場機会が与えられるはずだ。
巡ってくるチャンスが少なくて、たまに出番が巡ってきても結果を出したい欲が力みを生んで自分のベストパフォーマンスが出せない― こんなシーンをいろんな選手で見てきた。でも小野寺はそのチャンスで自分の持っているものを出せた。結果という形で示した。その前の日はベンチにすら入れなかったのに。細くて少しでも息を吹きかけたら消えてしまいそうなチャンスのかけらを、小野寺が掴んだ。僕はそんな風に思えた。

とはいえ、小野寺が得た出場機会はあくまで「しばらく」の間。この3安打があってもシーズン終わりまでずっとチャンスをもらえるわけじゃない。すぐにレギュラーになるわけじゃない。しばらくは出番をもらえたりもらえなかったりで、僕もやきもきしながら見守る日々が続くだろう。

改めて途方もない道のりだなと思う。だからこそ応援したくなる。

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