夢のタイムスリップ|#爪毛の挑戦状|410字
今年の夏。9歳になった私を残して母は死んだ。
元々体が悪かったらしい。
最後の言葉は「また会いに来るからね」だった。大人というのは嘘つきだ。
大丈夫。私には優しい父、そして友達がいる。
月日は過ぎ、クリスマスの時期になった。
こんなにも寒いのに、あの真夏のことを思い出すのはなぜだろうか。
父の運転する車に揺られ、家に着く。
そこで待っていたのは――
「え、お母さん?」
その女性は頷いて言葉を発した。
「久しぶり、だよね」
私はただただ号泣し、母に抱きついた。懐かしい匂いに包まれ涙がさらに止まらなくなる。
「実はタイムスリップしてきたんだ。お母さんが元気な頃からね」
私はこの半年の出来事を語り尽くし、気づけば眠ってしまっていた。
また来年にね――
その言葉は、私にとって最高のクリスマスプレゼントだった。
*
「来年も夢を見せられるかしらね」
家に着いた私は1ヶ月ぶりのタバコを口にしていた。
煙の交じる息で旧友の写真に声をかける。
「メリークリスマス」
あとがき
それがたとえ儚い夢であっても―
Special Thanks!
爪毛さんのお題を頂きました。
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