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ショートショートnote杯の作品

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ショートショートnote杯で投稿した作品です。 https://note.com/simpeiidea/n/n494a3af60f97
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しゃべるピアノ

その男は毎日のように路上でピアノ演奏のパフォーマンスをしていた。 彼の演奏はそれは素晴らしく、ピアノでの演奏の限界を超えているようにさえ感じさせるその音色は人々を魅了し、多くの投げ銭による収入を得ていた。 しかし、ある日のこといつものように彼が演奏していると急に演奏が止まってしまい、それと同時に咳き込んだような音が聞こえてきた。 彼の演奏を見ていた観客たちが何事かとピアノに駆け寄る。彼は日頃からピアノに近寄ることを禁止していたが、一度起きてしまった流れは止められない。

初めての神様

そりゃ、神様なんて初めてじゃからな。 当然、世界を創るってのも初めてじゃったわけで、ワシは先代の神様から引き継がれたレシピを元に世界を創っておったわけじゃ。 ワシは慎重に材料を入れて宇宙の元を造り始めたんじゃ。レシピ通りにな。 しかし、手元がちょっと狂ってしまったせいか、次の瞬間にはとんでもねー爆発が起こっちまったんじゃ。 「バーンッ!」って感じにな。 宇宙はとんでもなくデカくなちまって、ワシは腰を抜かすほど驚いたもんじゃ。 まぁしかし、せっかく創ったわけじゃし、

とびラジオ

はーい、皆さんこんばんは。 今週もこの時間がやって参りました。 就寝前のお供に小説を紹介する『とびラジオ』、司会はいつもどおり戸画美角でお送りいたします。 さて、最初の作品はこちら。 どうでしたか皆さん。 ピアノから男が出てくるとはびっくりですね。 続いてはこちら。 最近、寒くなってきたこの時期にはピッタリですね。 でも、SNSをやっている皆さんも炎上にはくれぐれも気をつけてください。 さて、今夜の最後です。 いやー、どうでしたか皆さん。 僕は北瓜や東瓜

夢の冷蔵庫

僕は夢のような冷蔵庫を手に入れた。 永久に鮮度を保存できる冷蔵庫だ。 といっても僕がその冷蔵庫に入れるものと言えば、散歩中に見かけた素敵な杏や百合くらいのものだ。 そう、僕は美しいものをいつまでもそのまま保存しておきたいんだ。 * そんなある日のことだ。 どうも冷蔵庫の調子がおかしいんだ。冷気が止まっているらしい。 これは一大事だ。 「ピンポーン」 この緊急事態に誰だろうと思って玄関を開けると警官が立っていたんだ。 「近所の方から苦情がありまして。ちょっと

しゃべる小学校

「おはようございます」 「おはよう、吉田さん。今日もいい挨拶ですね」 「おはよう!」 「おはよう、沢田くん。今日も元気ですね」 私はそうやって児童たちと挨拶をかわしていた。 * 6年間で卒業してしまう彼らとは一期一会の付き合いに過ぎない。 「はじめまして、皆さん」と入学式。 「どうぞお元気で、皆さん」と卒業式。 それらを繋ぐ喧騒な日々ー 私は幸せな小学校だったろうと思う。 * しかし長い年月というのは残酷なもので、私を支える骨格は歪み続け、肌もひび割れが目

プロのマッチ

「マッチいりませんかぁ?」 その少女は凍えるような寒さの中でマッチを売り続けていた。今は裸足で帽子すら被っていない……おそらく凍死するのは時間の問題だろう。 マッチである俺はそんな様子をただ見守っていた。 ただのしがないマッチでしかない俺が出来るのは、自身をしっかりと燃え上がらせることだけだった。 少女はあまりの寒さに絶えられなくなったのか、ついに1本のマッチを取り出して火をつける。 俺は全力で自身を炎上させる。 俺を見つめる少女の目は、そのわずかな暖かさと明かり

インドの神様

ガネーシャ。 良いネタが思いつけばよかったんだがねー しゃーない。 あとがきこういうのも1作くらいは。 見出し画像ですでにオチているのがポイントです。(何が 前作: 次作: Special Thanks! かなつん____ʃ⌒ʅ_🖋 さんの見出し画像で目に付いた「インドの」と「神様」を組み合わせて自由お題のショートショートとさせていただきました。

毒舌宝くじ

「ぷ、宝くじで夢を買うって……夢見すぎ(笑)」 「うるさいな。高額当選は夢みたいなもんだろ」 「それにしても買ったのがたった1枚って、ぷ、貧乏かよ(笑)」 「うるせぇよ!」 そう、僕が買った宝くじはしゃべる宝くじだった。しかも毒舌。 「買い手があるだけウチの方がマシやろ。何社目?落ちたの何社目?」 「心まで読むなよ!それに余計なお世話だよ!」 * そんな感じで、宝くじとの同居生活が始まった。 最初こそうんざりしたものの、慣れてくるといい話し相手のように感じて

消しゴムサイン

「ちゃんと練習しなさい!」 それが娘の美樹に対する最近の口癖になっていた。 小学3年生になった娘にはピアノを習わせていた。しかし、飽きっぽい性格なのか練習をすぐにサボってしまう。 しかし、それよりも私の悩ませていたのは字の汚さだった。 娘の字は同年代の子供に比べて極端に悪筆で、ピアノと同様、丁寧に書く努力をしないのが原因だと認識していた。 * その日のことだった。 「もっと字を丁寧に書きなさい!」 いつものように私が怒鳴ると、娘は「キライ!」と叫んで走り出し、

失恋ノリ

「ごめん。でも別れたほうがお互いのためなんだ」 ショックだった。 私にとって彼はこの世でたった一人の運命の人だと思っていたのに。 茫然自失して何もやる気が起きない私は、数日間も部屋にこもり切り続け、意味もなくスマホに入ったアプリを開いて眺め続けていた。 そんな中、ある商品が目に止まった。 ◆ 『失恋ノリ』 一生を共にしたい運命の人と別れてしまったあなたに!ヨリを戻せます! ◆ 心の弱っている人を食い物にする類のインチキ商品だ。私はそう思ったはずなのに、気づけ

バズる神様

そこは地上から遠く離れた天界。 そこに住まう神々たちの間では最近ある遊びが流行っていた。 「おい、昨日のツイートはバズったか?」 「ダメだ。全然伸びない」 「俺もだ」 そう、Twitterに人間のフリをして参加して、どれだけバズらせられるかという暇を持て余した神々の遊びだった。 「ワシのはよく分からんがバズっとるぞ。一晩で10万リツイート」と、そこに一人の神様。 「な、なんだって!お前なんてツイートしたんだよ!?」と、スマホを覗き込む神様。 『人類は100年後に絶

立方体ゲーム機

ニンテンドーゲームキューブ ニンテンドー ゲームキューブは、任天堂が2001年に発売した家庭用ゲーム機。略称はゲームキューブ、キューブ、GC、NGC、GCN。開発コードネームは「Dolphin」。本体および関連製品の型番にはDOLがつけられている。 日本では9月14日、アメリカとカナダでは11月18日、ヨーロッパでは2002年5月3日に発売された。日本での発売当時のメーカー希望小売価格は2万5,000円。 Wikipediaより * 「いやいや、こんなのノーカンだろ

東と西のスイカ

その昔、その国では内戦が絶えなかった。 数十年という長い年月に渡る戦いは人々を疲弊させ、武力以外による解決が望まれた。 その方法として選ばれたのが、その国で多く育っているスイカを使った料理対決だった。スイカを使った前菜・主菜・デザートという3品のコース料理を作って、それを諸外国からの来賓客に食べてもらい、総合的に満足度の高いほうが勝利というわけだ。 東側はスイカのカプレーゼ・スイカのパスタ・スイカジュース、対する西側はスイカのブルスケッタ・スイカのポトフ・スイカのシャー

だんだん高くなるコップ

それは今にも溢れてしまいそうだった。 理解できないありとあらゆるものが混ざりあった混濁とした何かが生み出され続け、そのコップに注がれ続けていた。 その水位はみるみると高くなってコップのフチまで到達し、それはもはや表面張力のみでギリギリ踏み留まっているいるという状況だった。 もはや限界かと思われたが、そのコップは突然高くなった。 少しの余裕が生まれるが、それでも混濁とした何かは注がれ続けられる。そして、それが溢れ出しそうになる度にそのコップはさらに高さを上げる。 そう