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20夜 この国はどうなるのだろう(その2)

 企業の期末決算で,過去最高益を出す大手企業が非常に多い.少し前までの新聞の経済欄では,そのような決算情報があふれていた.にもかかわらず,末端の私たちの間では,いっこうに景気が良いという話題はどこを探しても見当たらない.それどころか,実質賃金は数%低下したとか,物価が家計を圧迫とか,不景気の折に出てくる話題ばかりである.これはいったいどうしたことなのだろう.
 かつて1ドル=360円だったころ,日本の製造業は多くの製品を作り,海外に輸出して多くの外貨を稼いで,結果として景気がよいという状況であった.アメリカでは,対日貿易赤字がみるみる膨らんで日米貿易戦争なる言葉まで出る始末であった.そしてブレトンウッズ体制の崩壊と変動相場制への移行になったわけだが,2023年の今,円安が進行し輸出関連はかつてと同様に増収増益になっているようだ.だから,過去最高益という言葉が紙面を踊る結果になっているのだが,1970年代と異なるのは,製造業の多くが生産拠点を海外に移している点にある.海外での生産販売状況はドル建てであるため,それほど売上は伸びていないにもかかわらず,連結決算の際に国内での円換算をすれば円安であるために,円が安くなった分だけ売り上げは上がることになるのだろう.どうも,ここが問題なのかもしれない.
 筆者は経済の専門家ではないので,本当のところの原因はわからないが,こういった為替による利幅の変動というのは,見かけだけの利益ということであり,そりゃあ景気がいいとはお世辞にも言えない状況なのだろうと推測してしまう.
 その上,労働力不足も重なれば,輸入に頼る原材料費の高騰とともに,製品製造に対する重い足かせとなり,先行き不透明な状況がこれからも続くと考えるしかない.だから,一般庶民への景況実感にまで反映されないのだろう.
 ここのところ話題に事欠かないAIにしても,AI開発にかかわる主だった企業に日本の企業名は出てこない.もちろん,半導体製造や素材製造には,世界シェアの多くを占める日本企業がたくさんあり,そのことがサプライチェーンの位置づけにおいて日本の優位性が高いことは事実なのだが,半世紀前の他業種における日本企業の優位性から考えると,随分と減ったものなのだろうと思ったしまうのは私だけだろうか.
 問題は,今後数十年の世界を支える産業において,日本がどのような位置づけを占めることができるのかということだろう.
 ICTエンジニア不足が叫ばれて久しい昨今,そもそも教育が果たす役割を,教育施策においてどうとらえているのか見えてこない.別に産業振興に教育が寄与しなければならないなどという戦前や朝鮮特需時的な思考ではなく,資源立国でもないこの国が生きていくためには,多様な才能を伸ばす機会を教育がもつことが重要なのだが,施策の中にそのようなビジョンが一向にみえないのが,昨今の状況なのである.
 ビジョンを掲げられないのなら,せめてこれまでの教育制度を見直すための政策を掲げることはできないのだろうか.原級留置の制度はあるのだから,異年齢の児童生徒がともに机を並べても,キャリアに影響を及ぼさないような法整備をするだけでも結構変わると思うのだが.教育に再現性はないのだから試行錯誤するしか,問題解決の糸口を見出す手立てはないだろう.
先行きは暗いなあ. 

 

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