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初めて勤務した職場で出会った元軍医さん。
認知症の進行により家族のレスパイト目的でデイサービスに通われていました。

部隊でで1人だけ生き残ったという経歴のある方で熊のように大きな体格でしたが表情の優しい方でした。

ただ、いつもすぐに『帰りたい』と言って外に出て行こうとされて職員が引き止めたりドアに鍵をかけたりして開かなくしたりという対応をしていました。
当然元軍医さんはイライラして怒ります。

当時主任という立場でしたのであの人なんとかしてくださいとパートさんから頼まれました。
さも迷惑な人で困っている、と言った感じです。

そのデイサービスの管理者は施設の管理者も兼務していて現場には基本顔を出さない人で現場は主任に任せた、という方でした。前任の主任さんが退職するので代わりに僕が採用されて着任したのですが正職員は僕だけで後はみなさんパートのおばちゃんでした。ヘルパー二級と無資格のチームだったので認知症ケアには慣れてない様子でした。

当時の僕はまだまた経験が浅くチームにも溶け込んでいなかったので、チームメンバーからは色々試されていたのだと思います。僕が一番若く現場経験も浅かったから余計だったのかもですね。

デイには問題なく来てくれるのでデイサービスの中で居場所がなく安心できないから落ち着かないのだろうと思いました。まだ利用し始めて1ヶ月程度でした。

しかし僕も未熟なのでデイサービスから外に出したくなくて何度も引き止めたりして押し問答をしてました(苦笑)

『貴様!何の権利があって私の自由を制限するのかっ!』と凄まれた時は、死ぬかも・・・と思うくらい怖かったです。暴力を振るわれるようなことはありませんでしたが、いつも現場が騒然となるので対応に入るのがいつも怖かったのを良く覚えています。

認知症ケアについていろいろと資料を集めて調べて、まずはしばらく本人の言う通り、何の制限もせずに様子を見てみる事にしました。
いろいろ試行錯誤しているうちに、車で少し周囲を回って戻ってくると何となく落ち着いて最後まで過ごしてもらえる事に気がつきました。その時に、再度デイサービスに入る際に『先生、ここでちょっと皆さんの健康観察をお願いします。』と言って案内していたのも効果があったと思いました。

そこでしばらくはそういう感じで一度外に出て気分転換してもらってから健康観察をしてもらう事で落ち着いて過ごせてもらえるようになりましたし、最終的には個別の送迎に切り替えて朝の血圧測定などの報告を元軍医さんにする事で途中で帰りたいという行動がでなくなりました。

当時の僕は、このなんとなく騙してごまかしているような対応に、此れが本当に正解なんだろうか、と不安な気持ちもありました。職員からもそんな嘘ついてひどい対応だとも言われました。今では本人にとってその場所に居ることを自分で納得してもらうための必要な対策の一つと考えています。

当時のデイサービスでは、まだまだ認知症の利用者様は少なかったので最初は他の利用者様からも怖がられたり気味悪がられたり馬鹿にされたりしていましたが、健康観察をお願いして血圧を報告したりしている間に、その血圧ならもう一度あとで測りなさい、とか指示も出してくれたりして、いつのまにかデイサービスのお医者さんになっていました。

職員もデイサービスの途中で外に出すなんて、と否定的でしたが、徐々に落ち着いていく様子や、基本的な認知症の学習も定期的に進めたこともあって対応や態度も穏やかで落ち着いたものになっていきました。

相乗的に元軍医さんにとって落ち着ける場所になれたのがよかったんだと思います。
当時はがむしゃらにやれる事を精一杯やった結果で、そうなるような予想も立てられず無我夢中でしたが、これもだめあれもだめという状況でも諦めずに他の方法をいろいろ試し続けた事が結果に繋がったんだと思います。

介護の仕事を始めたばかりで、自ら学ぶ事、諦めない事、チームの底上げをする事の大切さを学べた事は、その後の僕の仕事に対する姿勢の土台になっています。

また、チームメンバーから否定されたり言う事を聞いてもらえなかったり、なんならパワハラと言われるようなこともこの頃はされましたが、なんとか乗り切れた事も大きかったと思います。
新人を認めない、可能性の芽を積む、理想を追わずに現実を見て諦める、そういうチーム環境が、この他の事業所でも同じようにあるのだとしたら、理想と夢と期待を胸に入職した新人介護職が、いったいどれだけこうして潰されて行っているのかと思うとゾッとしましたし、これは変えなきゃならない課題だと強く感じました。
当時は新人でしたが主任という立場で一定の権限もあったので生き残れましたが、これが平社員なら絶望感しかなかったかもしれません。

離職理由の多くが『職場の人間関係』です。
そこには恐らく理不尽な原因が込められていると思います。正しいと思うことが許されず、おかしくないか?と思う事が横行する。介護の常識は非常識とよく言われますが、いまでもそのような環境があるのだとしたら、今の介護業界の人手不足は自業自得としか言いようがありません。

かくいう僕の今の職場でも完璧ではありませんが、日々理想に向かったケアを実現できるようトライアンドエラーを繰り返しています。

気持ちが折れそうな時に、元軍医さんの事をよく思い出します。

そして、いつか介護の現場に絶望して去って行った仲間が戻ってこれる場所を作りたいと考えています。

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