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尊厳について

職場教育の場でチームを集めてまずみんなに聞くのが『介護保険の目的って何か知ってる?』です。
付随してデイサービスなら通所介護の目的、ヘルパーなら訪問介護の目的も確認しますが、この我々介護事業者が何のために介護サービスを提供しているのかという基本的な目的の確認からしておかないとならない現状があります。

多くの職場で、この問いにちゃんと答えられた職員はほんの数人で、ほぼ全ての職員が見たことも聞いたことも意識したこともない、というのが実際でした。うちの会社だけかもしれませんが(笑)

ただ、これについて学んでないはずはないんです、どんな研修でも基本的なところでこの内容はおさえてあるからです。

別に暗記しろとかそういう事ではなく、自分の言葉で介護保険の目的を説明できないと良くないと思うので、毎年年度初めの研修ではこの質問をしています。
だんだんと答えられるようになる職員はいますが、みんななかなか発言しないので一人ずつ当てて答えさせたりするんですが、前の人が答えた事と同じです、とかの回答が多くてつまらないです(笑)

介護保険法の目的は、以下の内容に集約されていると思います。

『・・・これらの者が尊厳を保持し、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう・・・』

利用者さんを尊重し、尊厳を守り、本人のできる事に応じて個別ケア・自立支援を行うこと。
僕は大体こんな感じでみんなに伝えます。

そこでだいたいの職員がそうなんだ、と納得した感じのタイミングで、『じゃあ尊厳ってなんだろうね、説明できますか?』と質問をします。

尊厳という言葉はよく耳にしますが、あえて説明しろと言われると難しいですよね。

職員から出る回答で多いのが、その人らしさ、人権、命、プライバシー、プライドですか?・・・などの回答が多いです。

そこで尊厳の意味を調べてもらうとだいたい以下の内容が出てきます。(事前に資料を用意したり、その場で辞書やスマホで調べてもらったりします)

『尊くおごそかなこと、重々しくいかめしいこと。また、そのさま。(コトバンクより抜粋)』
『尊く、おごそかで、犯してはならないこと。気高く威厳があること。(Google日本語辞書より抜粋)』

『個人の尊厳(こじんのそんげん)あるいは、個人の尊重(こじんのそんちょう)とは、すべての個人が互いを人間として尊重する法原理をいう。(Wikipediaより抜粋)』

『日本国憲法の根底には「個人の尊厳」の理念があるとされる。日本国憲法の三大原理としてしばしば挙げられる国民主権、基本的人権の尊重、平和主義も、「個人の尊厳」を根拠とする。(Wikipediaより抜粋)』

要は、日本国民として当たり前に守られるべき基本的人権であったり、その人自身の個性や人間性そのものを尊重する事であり、他人が勝手に侵害してはならないものだと言う事で、その人が嫌だと思う事を他人から強要されたり強制されたりしない事なんだと思います。

そこで僕はもう一つみんなに質問します。

『この中で、オムツを履いてオムツの中でおしっことうんちを漏らした事ある人いる?』

僕も笑顔で質問するのでみんな笑いながらそんな事をした事ないと言うんですけど、そこで僕は介護福祉士の資格を取って介護の仕事に就く前にオムツを履いてオムツの中でおしっことうんちを漏らしてみた体験談を紹介します。

実際、今思い出しても辛い思い出ですが、まずオムツを買うのもとても恥ずかしかったです。
次におしっこもなかなか出ませんでした。
我慢も限界に達してオムツ内でおしっこをしましたが、とてつもない敗北感と情けない気持ちになりました。
そして気持ち悪いから早く履き替えたかったです。
うんちが難敵でした。僕は毎日排便があるくらいの快便だったんですが、結局3日間オムツの中で排便はできませんでした。
オムツは朝と夜に取り替えましたが、おしっこを漏らすたびにすぐに履き替えたくなりました。
ただ、不思議なもので2回目3回となると慣れてくるのか、おしっこを漏らす抵抗感は減りましたが、やはり虚しさや残念感はかなり感じました。
そしてついに3日目にうんちを漏らすのですが、本当は椅子に座ったまま漏らすつもりだったのですが、我慢するのと漏らすための葛藤があり立ち上がって中腰で半ば無理やり諦め感もありつつオムツの中で排便しました。
正直泣きたくなりましたし、なにか自分の大切なものが崩壊するような気持ちになりました。
気持ち悪いし早く脱ぎたいし綺麗に体を洗いたい気持ちでしたが、最後の気力を振り絞ってこの状態で椅子に座りました。ひどい体験でした、気持ち悪いし一刻も早く脱ぎたいし綺麗にしたかったです。

この話を紹介して、ちょっと違うかもだけど尊厳を守るって事は、こういう想いをさせない事なんだと僕は思ってます、と伝えて、みんなが出してくれた回答(その人らしさ、人権、命、プライバシー、プライドなど)を再度確認して、こう言う事を全部守らなきゃダメだよね、と伝えています。

どこまで職員が理解してくれているかわかりませんが、オムツの中で失禁した体験のある職員も数人はいて、そういう職員はだいたいみんな視点がいいケアをしている感じです。

介護保険法は法律ですから、その目的として尊厳を守ると明記されている以上、それは最低限守らなければならないルールだと思います。

一人ひとりの尊厳を守る事は体制上、業務上難しいかもしれませんが、これは理想の目標ではなく守るべき基準なので優先的に配慮されるべき事柄だと思います。

虐待禁止や身体拘束禁止という規則もありますが、そもそも尊厳を守る事が徹底出来ていれば発生しないのが虐待や身体拘束ですので、悩ましい課題だと思います。

以前いた職場で、女性の利用者さんが入浴を同性介助を希望されたので、そのように体制を組むように現場に指示を出した事がありますが、なぜその人だけ特別扱いなんですか!?と反発された事があります。

その時もこの介護保険の目的や尊厳の話をして、そもそも女性の利用者さんに男性介護職が、男性の利用者さんに女性介護職が排泄介助や入浴介助をする事自体がダメな事で、そこを施設の都合や体制上の問題で利用者さんにご理解をしていただき、同性介助でなくてもいいよ、と言ってくれている方に施設側からの無理をお願いして我慢してもらっている前提なので、同性介助という正当な希望があればそのように対応するのが介護保険事業者として正しい対応でしょ。というか人間として当たり前の対応じゃないの?利用者さんにそんな権利はないと言うことですか?と答えました。

そんなの聞いたことないです、とか言われますが、僕は違法行為や憲法違反、人権侵害はしたくないので、僕がリーダーのこの職場では同性介助の希望があれば対応するし、判断の根拠は示したので理解してください。と伝えて無理やり納得してもらいました。不承不承の様子でしたけど。

たしかに現場は忙しいし大変です。
だからといって何でもかんでも現場職員優先にしていては理念も目的も果たせません。
特に介護保険の目的は尊厳を守り自立支援を行う事ですので、まずは職員がその目的を果たす。ようは義務を果たして後に権利を主張すべきと考えています。

権利を主張する職員の多くが、この仕事の目的を正しく理解していない現実もあるので、こういう基本的な教育・指導は本当に重要だと思いますし、限界のある現場を回しながらの状態の中で伝えて現場に浸透させていくのは至難の技だと思っています。
しつこく伝えてきているつもりの僕の職場でも、なかなか思うように現場に馴染まないのが現実です。

ただ、それこそ諦めたらそこまでなので、理想と目指すべき目標については、常に伝えつづけないとならないと思います。

制度上の課題や限界もあるとは思いますが、それを理由にできないという課題でもないので、リーダーとしては日々なんとかしなければと悩まなくてはならない問題だと思っていますが、僕個人の考え方や捉え方なので、そのあたりご理解いただいて読んでいただけるとありがたいです。

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