非低リスク非浸潤性乳管がん(DCIS)に対する乳房温存手術後の全乳房照射後のブースト照射の効果

Chua BH et al. Lancet. 2022. PMID: 35934006


アブストラクト

<背景>
・非浸潤性乳管がん(DCIS, ductal carcinoma in situ)では、乳房温存手術後に全乳房照射(WBI, whole breast irradiation)を行うことにより局所再発リスクを低下できる。
・非低リスク非浸潤性乳管がん(DCIS)において、全乳房照射(WBI)後に腫瘍床に対するブースト照射を加えることによる治療成績が改善できるかを評価し、全乳房照射の線量分割の影響も評価した。
<対象と方法>
・試験デザイン:第3相ランダム化試験(NCT00470236
・適格基準:18歳以上、片側性、組織学的に証明された、非低リスク非浸潤性乳管がん(DCIS)に対する乳房温存手術施行例、1 mm以上の切除マージンが担保された患者。
・(1:1:1:1)の割合で腫瘍床に対するブースト照射あり vs. ブースト照射なし、全乳房照射の線量分割 通常分割照射 vs. 寡分割照射に割り付けるか、(1:1)の割合で予め指定した全乳房に対する通常分割照射/寡分割照射後のブースト照射追加あり vs. 追加照射なしにランダム化を行った。
・通常分割照射:50 Gy/25回、寡分割照射:42.5 Gy/16回
・ブースト照射:16 Gy/8回
<結果>
・2007年6月-2014年6月の期間に1,608例がランダム化され、ブースト照射なし(805例)、ブースト照射あり(803例)。
・通常分割照射が831例、寡分割照射が777例に対して行われた。
・経過観察期間中央値6.6年時点で、5年局所再発回避割合は、ブースト照射なし 92.7%(95% CI 90.6-94.4)、ブースト照射あり 97.1%(95.6-98.1)で、ブースト照射群で有意な再発減少効果を認めた(HR 0.47, 95% CI 0.31-0.72, p<0.001)。
・ブースト照射ありの患者でグレード2以上の乳房痛(14% vs. 10%, p=0.003)、硬結(14% vs. 6%, p<0.001)が多く認められた。
<解釈>
・摘出術後の非低リスク非浸潤性乳管がん(DCIS)において、全乳房照射(WBI)後に腫瘍床に対するブースト照射を追加することにより局所再発は減少した一方で、グレード2以上の毒性の増加がみられた。


患者背景

・2007年6月から2014年6月の期間に1,608例がランダム化され、ブースト照射(+)群に803例、ブースト照射(ー)群に805例が割り付けられた。
・通常分割照射による全乳房照射が831例、寡分割照射による全乳房照射が777例に対して行われた。
・全乳房照射単独群に割り付けられた患者のうち1例で腫瘍床に対するブースト照射が行われていた。
・ブースト照射群に割り付けられた患者のうち27例では全乳房照射(WBI)のみが行われていた。
・アジュバント内分泌療法が、全乳房照射単独群 106例(13%)、ブースト照射追加群 105例(13%)で予定された。
・4例(<1%)が同意を撤回し、112例(7%)がフォローから外れた。
・経過観察期間の中央値は6.6年。
・大半は50歳以上の患者で、顕微鏡的腫瘍サイズが20 mm以下、手術の切除マージンの中央値は5 mmであった。
・Closed radial marginが不明な患者が38%存在しており、これらのうち40%は1回以上の再切除が行われていた。


治療成績

・5年局所再発回避割合は、全乳房照射単独群 92.7%、ブースト照射追加群 97.1%(HR 0.47, 95% CI 0.31-0.72, p<0.001)。
・局所再発のうち、全乳房照射単独群では44%、ブースト照射追加群では45%が浸潤性乳がんでの再発であった。
・局所再発のうち同じquadrantからの再発の割合は、全乳房照射群で81%、ブースト照射追加群で73%であった。
・探索的解析において、年齢や腫瘍サイズ、核グレード、コメド壊死、切除マージン幅、内分泌療法の施行の有無によるブースト照射による局所再発への影響に違いは認められなかった。

・全乳房照射において、線量分割による5年局所再発回避率に明らかな違いはみられなかった(通常分割 94.9%、寡分割 94.9%, HR 0.94, 95% CI 0.51-1.74, p=0.85)。
・Multivariate modelにおいて、腫瘍床に対するブースト照射と腫瘍サイズが独立した局所再発のリスク因子であった。

・5年再発回避割合は、ブースト照射群(93.7%)と比較して、全乳房照射単独群(89.6%)で不良であった(HR 0.63, 95% CI 0.46-0.87, p=0.0042)。
・領域リンパ節再発(全て腋窩リンパ節)が全乳房照射単独群 5例(<1%)に認められ、ブースト照射群では領域リンパ節からの再発を認めなかった。
・遠隔再発は、全乳房照射単独群 1例(<1%)、ブースト照射追加群 5例(<1%)に認められた。
・通常分割照射と寡分割照射の比較において、5年再発回避割合に違いを認めなかった(通常分割 91.0%、寡分割照射 92.4, HR 0.83, 95% CI 0.50-1.38, p=0.46)。
・全乳房照射単独群とブースト照射追加群の5年全生存割合に統計学的有意差を認めなかった(98.2% vs. 99.0%, HR 0.81, 95% CI 0.45-1.45, p=0.47)。


有害事象

・グレード4の有害イベントの発生はまれで、グレード5の有害イベントの報告を認めなかった。
・ブースト照射追加群でグレード2以上の乳房痛(14% vs. 10%, p=0.003)、硬結(14% vs. 6%, p<0.001)の増加を認めた。
・全乳房照射の線量分割とこれらの相関はみられなかった。
・ブースト照射を追加することによる放射線肺臓炎や心疾患、放射線治療に関連した二次がんの明らかな増加を認めなかった。


【関連】

・非浸潤性乳管がん(DCIS)に対する放射線治療 (note




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