見出し画像

冷凍食品と私

冷たい空気を漂わせながらお気に入りの明太パスタがこっちをみている。

午前11時に8回目のアラームでやっと目を覚ました。
12時になったら起きあがろうと思い、横になりながら携帯をいじっていた。

土曜日の朝はいつもこう。お昼前に起きて、お昼までベッドでゆっくりし、気が済んだら「今からが私の朝」ですと言わんばかりの一日を始める。顔を洗って歯を磨き、髪を整え、コンタクトを入れて、マグカップにコーヒーを入れる。
特に用事もないし予定もないのに、とにかく他所行きの格好をする。土曜日の朝はいつもこう。
そしてお気に入りの音楽をカセットテープから流す。チープな音質と、無造作に入るノイズが私を優雅な土曜日へと連れ出してくれる。

私は都内の大学に通うただの大学生。ちゃんと話す友達が3人、挨拶をするだけの友達が5人ほどのただの大学生。少し冷めているかもしれないただの大学生。
千葉県から東京に出てきたので、特に「上京!!」って言う気持ちでもなく、ただひとり暮らしがしたくて都内へ引っ越してきた。
特にやりたいこともなく、ただ単に大学へ受験するのが当たり前だと思い受験して、合格したら行くのが当たり前だと思い大学へ進学した。
だからと言うわけではないけれど、サークルにも興味がないし、休みの日に大学の図書館で勉強をしたいとも思わない。
休みの日はゆったり優雅に過ごすのがいい。

小学生までは割と活発な生徒だったけど、中学生くらいから妙に周りの人間が子どもに見えて、物事をすぐ俯瞰で見るようになった。
そのせいでか、あまり協調性がなく、大人数で遊ぶのも苦手だ。
だから休日もゆっくり優雅に過ごすのが好きだ。

うちは両親が共働きで日曜日以外はいつも家にいなくて、家のことのほとんどを自分でこなしていたし、中学生になる時に母から家事全般も仕込まれていた。私の急激な精神的成長の原因はここにあると思われる。初めは「どうして私だけ?」などと、悲劇のヒロインのように追い詰められたフリをして母にぶつかったこともあったが、21歳になった今は家事について困ることも特になく、非常に感謝している。
土曜日は両親が家にいなかったので、いつも冷凍庫に並べられた冷凍食品からお昼ご飯を選んでいた。冷凍食品はどれも美味しいかった。だから、このことに対して別に文句もなかった。
特別だった。土曜日のお昼は自分で選んだ食べ物を好きなだけ好きなタイミングで食べる。そうやって過ごすことが、私にとっては特別だった。

そして土曜日の夜、家族で食べる夕飯がまた、どれだけ温かいものなのかを私は知っていた。
だから寂しくなかった。
土曜日のお昼、ひとりで冷凍食品を温めてる時間も寂しくなかった。
訳の分からない大人たちが日本の情勢に文句を言う番組を観ながらでも、寂しくなかった。
食べ始めて二口目でそこが冷たかったことに気付いたとしても、寂しくなかった。
母からも父からもそんなことは教わらなかったけれど、
人と一緒に食べるご飯はとても美味しいのだと、生活が教えてくれていた。

だから今でも私は、同じ土曜日を過ごす。
顔を洗って歯を磨き、髪を整え、コンタクトを入れて、マグカップにコーヒーを入れる。
特に用事もないし予定もないのに、とにかく他所行きの格好をする。
冷蔵庫にあるお気に入りの明太パスタをレンジで温め、人気タレントが政治に斬り込む番組を観ながらフォークを回す。

「ピロンっ」と携帯の通知が鳴る。画面に目をやると、約束をしていた友達からメッセージ。【今日、18時に高田馬場集合ね!】
お気に入りの音楽をカセットテープから流す。チープな音質と、無造作に入るノイズが私を優雅な土曜日へと連れ出してくれる。

人と一緒に食べるご飯はとても美味しいのだと、私は知っている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?