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地方創生の産みの親、増田寛也氏講演レポート

とあるイベントで、地方創生事業の出発点とも言える所謂増田レポート(※1)や、新書 地方消滅(※2)の著者で有名な超大物、増田寛也氏の講演を聞いた。

(※1)成長を続ける21世紀のために「ストップ少子化・地方元気戦略」平成 26 年 5 月 8 日
日本創成会議・人口減少問題検討分科会

(※2)書籍詳細は以下の通り。

お題は、「人口減社会に対応した、まちづくりとスマートシティの将来像」。

1.増田氏の経歴

増田 寛也(ますだ ひろや、1951年12月20日 - )
日本の政治家、元建設官僚。 日本郵政代表執行役社長。東京大学公共政策大学院客員教授。都留文科大学特任教授。
岩手県知事(3期)、新しい日本をつくる国民会議副代表、総務大臣(第8・9代)、内閣府特命担当大臣(地方分権改革)、内閣官房参与、野村総合研究所顧問、日本創成会議座長、東京電力社外取締役などを歴任した。
(Wikipedia より)

華々しい経歴に加え、地方創生事業を代表する超有名人である事から1,000人は入る会場はほぼ満席。

また、2019/12/21に第二期まちひとしごと創生ビジョン2019が閣議決定された後のタイミングとなり、その話題も取り上げられるとあり、関心が高い。

果たして地方創生の産みの親はこの五年の第一期の国家事業をどう認識するのか。

ちなみに冒頭、司会の人に野村総合研究所顧問という前職で紹介されたので、増田氏が今は日本郵政にいます、と訂正。みんな郵政の社長である事を知ってると思いつつ、敢えて郵政を避けた事に何か意図があったのかとモヤッとはした。

2.本題

さて、本題はやはり人口減の話から。第一期では目標とした東京一極集中の是正はなされなかった事を正直に認め、課題を以下のように設定。

(1)人口増加前提モデルから人口減少モデルへのチェンジ
(2)SDGsの観点から(コンパクト+ネットワーク、レジリエンス)
(3)女性が活躍できる環境の整備
(4)Society5.0の社会の実現

(1)人口増加前提モデルから人口減少モデルへのチェンジについては、地域間の人口の奪い合いになる短期的な社会増ではなく、(超)長期の視点での出生率の回復による自然増を目指すべきとした。

(2)SDGsの観点から(コンパクト+ネットワーク、レジリエンス)は社会保障の持続性を高めるために以下の4点を重視する。

 ①財源
 ②担い手
 ③テクノロジー(遠隔医療など)
 ④街づくり(集住)による総合的アプローチ

(3)女性が活躍できる環境の整備については、重視する点を就労の数から職種や職位、仕事の内容へ変え、企業経営等社会の重要なポジションに女性が普通に就ける社会の実現を目指す。

(4)Society5.0の社会の実現はIoT,ビッグデータ、AIなどを産業や生活に取り入れることで、どこでも仕事ができ、企業活動も成り立つ社会の実現を目指す。

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(この写真の画像は無料で使えるぱくたそオリジナルのフリー素材です。)


また、2040年への日本の課題として、以下を挙げた。

(1)人口減少、少子化、高齢化
(2)覇権国のいない国際秩序
(3)気候変動、地球環境問題の深刻化
(4)自然災害リスクの増大
(5)デジタル経済圏の拡大
(6)新技術、ライフスタイルの変化
(7)国土構造の変革

3.話の裏にあるモノ

さて、皆さんどう感じただろうか。そう。既にどこかで見たことのある内容ばかりだ。

まずは、1期目の事業が期待通りに果たされなかったことを認めたのは正しいが、結局出生率の回復による自然増を目指すという、いまだ地方創生を人口問題として捉える側面を脱していない。人口問題ではなく、経済問題であることは理解していると口頭では言っていたのだが、指標がそうはなっていない。

急激な人口減は労働の担い手不足による経済停滞、税収の急激な低下など様々な社会的害を生むというのはその通りなのだが、それでも根本の話ではない。

4.どうすべき?何を目指すべき?

では、ここで増田氏の言葉を離れ、何を目指すべきかについて話そう。

目指すべきは大量生産・大量消費・均一・均質社会からの脱却であり、真の地方分権である。

急激な人口減に耐えうる社会とは、地域独自の特徴に根差した文化をもち、それをもって小規模であっても高付加価値かつ既存の行政区分にとらわれない独自経済圏を確立し、ひいては税収の増加につなげる事により、自立する事を目指すものだ。

また、中心街が空き家だらけになっているので、郊外での開発が進むゆるスプロール化により道路、水道などのインフラの維持管理が膨大にかさむ状況と、地方の歳入の改善を図るために1/6に極端に減免された住宅の固定資産税を見直し、税の弾力性向上を実現する。
過剰な減免がなくなれば、空き家もお金をかけてでも取り壊し整地する動機が生まれ、住宅市場で正常に土地が取引されるようになる。

そういった、根本的な社会システムの改善に手を付けずに、国からの補助金を地方へ交付税交付金という形でばらまき、多大な人的コストをかけ補助金の審査、適正化を行う。
自治体からすれば結局他人の金である国費を消費し、短期的な利益に群がる民間企業ともども消費すれど長期的な社会課題解決の責任を取らない仕事のやり方を繰り返す構図がますます社会を疲弊させていく。

Society5.0、5G、遠隔医療などの美しい言葉の裏には、決して表に出したくない、ドロドロした利権と責任の放棄にまみれた金の亡者たちが見え隠れするのだ。

増田氏も補助金をもらうことを目的としている人がいるというマイルドな言い方をしていたが、もはや国に金と権限を集め、地方へ配分するという国家経営・地方経営モデル自体が通用しなくなっているのだ。

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(財務省・国税庁)(この写真の画像は無料で使えるぱくたそオリジナルのフリー素材です。)

この過去の成功例すなわち、現在の足かせを脱し、財源と権限を伴った真の地方分権に移らない限りいつまでも短期的な利益を求め長期的な社会損失を招く構図は脱せないだろう。

そうそれは目の前に見える希望に満ち溢れた美しいテクノロジーではなく、国家経営モデルの破綻という誰もが口に出したくない大問題なのだ。

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