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切手606円分


上手に泣けなくなって

泣きたい時に泣けなくて

泣きたくない時に泣いて

泣きたい時に泣ける人が羨ましくて

泣きたい時に泣ける人は泣きたくない時も泣いてしまうのかなって考えた


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8月上旬、自転車の鍵を失くした。

これで2つ目
そして最後の1つだった。


私は生きるのが下手だ。
自称ではない。
友達に、バイト先の先輩に、高校の後輩に、あらゆる人に言われてしまうくらいには下手だ。


自転車を買ったのは高校1年生の秋のこと。

2つの自転車の鍵と、大阪の工場に700円分の切手を送ると1つスペアキーを作ってくれるというサービスがついていた。


1つ目の鍵を失くしたのは高校2年生の秋のことだったと思う。
その時、どうせもう1つもすぐに失くしてしまうだろうからと考えて、切手700円分を入れて大阪の工場宛の封筒を用意した。


そして、思っていたよりも長く、失くさなかった。

17歳の秋に用意して20歳の夏まで出番がなかったその封筒も、失くさなかった。

上手い、生きるのが上手い
かもしれない。

と鷹を括ったのも束の間

”ポストに封筒を入れる”という1秒で終わる行為をめんどくさがっていた私は、手元に封筒がありながら、2週間も放置していた。

最寄りの駅から家まで歩いて30分かかるというのに、毎日のその片道30分(往復1時間)よりも、たった一度の1秒をめんどくさがった。

怠惰すぎる。怠惰という言葉がふさわしくないくらい怠惰だ。生きるのが下手だ。

結局、8月下旬の免許合宿に行く前日に封筒をポストに投函した。きっと、免許合宿中にスペアキーが届いて、帰ってきてからは自転車のある日常を過ごせると考えていた。

ところが合宿中、大阪の工場から電話がかかってきた。

「1つにつき700円なんですけど、切手が606円分しか入ってなくて、、、」電話越しの女性が申し訳なさそうに、そう言った。

申し訳ないのはこちらの方だ。なぜ、中身をちゃんと確認せず投函してしまったのだろうか。そしてなぜ、606円、、、、、、?

私は大馬鹿者だ。

思い返してみたら1年ほど前、手紙を送るとき94円切手を買うことをめんどくさがって、あの封筒から抜き出して使ってしまっていたのだ。
すっかり忘れていた。

という訳で、94円切手を大阪に送るために、94円切手を貼った封筒を改めて用意する羽目になった。

なんて馬鹿げた話なのだろうか。

そして更に馬鹿げているのが、94円切手を2枚買うのをめんどくさがって、免許合宿から帰ってきて2週間くらい放置していたのだ。

めんどくさいのオンパレード。
その間にも私は、毎日家に帰るために30分の時間をかけているのだ。


そして9月下旬、やっと94円切手を2枚買った。
そして次の日、その94円切手2枚を失くした。

馬鹿だ、馬鹿すぎる。そして下手すぎる、こんなにも生きるのが下手な20歳は他にいるのだろうか。

この時はさすがに、自分が生きるのが下手すぎて泣きたくなった。泣けなかったけど。

結局そのまた次の日に、94円切手を2枚買って、すぐに大阪の工場に送った。
私は生きるのが下手すぎて、94円切手1枚を送るのに、1ヶ月の時間と、4枚の94円切手を費やしたということだ。

そしてそれだけでない

およそ1週間後、待ちに待ったスペアキーが届いたのだ。全く型番が違うスペアキーが。

つまり私は、約2ヶ月と1000円を使って、ちんぷんかんぷんの物を注文していた。


生きるのが下手だ。泣きたくても泣けないから、笑いに変えるしかない。


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