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惨絶の金賞。
薄暗い座席から、満天の光を浴びた壇上に呼ばれる。
拍手の中でも、いつもより早い鼓動が聞こえる。
初対面のおじさんに頭を下げて、手に余るものを二つも渡される。
口元に近づいてきたマイクに、準備していた自分の気持ちを伝える。
「友達に、描いてもらいました」
ランドセルの黄色いカバーが外れた頃、いつも遊んでいた「よー君」を見なくなった。
クラスが変わったせい?
ボクは先生に頼まれてお手紙を配達する道すがら、一人で考えた。
だけど、よー君はいつも笑顔でボクに会ってくれた。
よー君とは外では遊ばいなけど、ゲームや本が大好きだった。
ブロック、木のおもちゃや本に囲まれている部屋は、いつも羨ましかった。
そしてよー君は、絵がうまい。
お願いをしたら、ボクの自由帳にスラスラと絵を描く。
ボクと同じ鉛筆なのに。
だから、学校の授業で絵を描く時だけは、こっそりよー君に相談している。
そんなある日、よー君が絵を交換することを提案してくれた。
夏休みの宿題のやつだ。
よー君は学校に行けないから、ボクが代わりに絵を提出する。
二人だけの約束だった。
静まった薄暗い座席から、再び雑音が戻ってくる。
ボクの頭にはよー君との思い出でいっぱいだった。
周囲の大人が案内してきた部屋に着いても、よー君に早く伝えたい気持ちでいっぱいだった。
だから、よー君が描いたことを繰り返して説明した。
嘘つきだとか、偽物だとか、体調の良し悪しとか、たくさん聞かれた。
いっぱい、お母さんが謝ってる姿を見た。
金賞じゃなくなるかもって、おじさんにも言われた。
でもボクは、これでいいと思ってる。
よー君には、もう二度と大好きな絵が描けないから。
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