ラジオドラマ脚本 010
広見(M)今日の午後の面会時間に来てほしいと連絡が来た。
N:病院の駐車場に車を止め、車から歩き出
す広見さん。
広見「くそ暑いな。暑いだけで気が滅入る」
SE:ドアの開く音
広見「どう?具合は?」
弘道「この暑さなら、いつでも死ねそうだ」
N:寝間着のままで外を眺めている弘道さん
広見「食欲はあるの?なにか。食べ物でも、
買ってこようか?ただし、酒以外。」
弘道「お前も母親に似てきたな」
広見「嫌われるほど、モテてはいない。残念
ながら。」
弘道「俺に似ればよかったのに」
広見「何の話だよ」
弘道「モテないお前のせいで、この俺が、墓
の心配をすることになるとは。お前が墓じ
まいをしてもらえないだろうか?」
広見「なに?」
弘道「知らないか」
広見「墓は、永遠だろう?」
弘道「墓もだれかが、管理をしないとならな
いんだ。今は、私がお寺さんにお願いをし
てるんだ」
広見「俺がやるの?この俺が?」
弘道「やるといっても、お寺さんに管理費を
払うだけだがな。」
広見「やっぱり、金か」
N:父親、深いため息をはく。
弘道「そのための墓じまいだ。死んだ後に、
お前さんに迷惑をかけるのも心苦しいので、
もう、お寺さんにたのんである。お金は心
配するな」
SE:窓から蒸し暑い風が吹き込む
広見「めんどくさいのはごめんだ」
弘道「私が断ち切っておくのさ。誰も、来な
い墓もかわいそうだからね」
広見「俺の墓はなしか」
弘道「お前が求めていた人生そののものだ」
広見「楽しかった?」
弘道(M)楽しい人生かって?俺たちの時代に
そんなことを考える時間は無かったさ。
広見「なんで俺に、店を継ぐことをいってく
れなかったんだ?」
弘道「三日でつぶれたら困る」
広見「そうかな」
弘道「親の感は、正しいものだ」
広見(M)相変わらず、このくそ親父は、俺の
ことを信じてはいない。
広見「親父さん、墓じまいはわかったけど、
親父さんの骨は?」
弘道「そのことだか、一つだけ頼みがある」
広見「金はないよ」
弘道「海に散骨をしてくれないか。契約は、もう交わして、金も振り込んである」
広見「嘘くさい」
弘道「馬鹿にするなよ。老人でも、夢を見る
んだ」
弘道(M)信じられなくて当たり前か海に散
骨。これだけはしないと‥。
広見「墓がないから、親父さんに嫁を紹介す
る時は、どうするかな?」
弘道「今すぐに紹介しろ」
N:広見の乾いた笑い声が病室に響く。
広見「あっ、母さんが死んだ時、なんかの書
類が出てきたよね」
弘道「保険であっても、わしがすべて使い切
る。お前に残しても、翌年の税金が払えな
いお前の泣き顔が想像できるからなあ」
弘道(M)銀婚旅行ハワイツアーの申込書だ
った。結婚当時、トリスを飲んでハワイに
行こうというCMがあって、母さんとよく
行きたいねって、言い合っていた
広見「税金頭が痛いよね」
N:おやじさんとの面会の帰り道。
広見(M)あの書類、まだ、家にあるはず、
探してみるか。あのはぐらかし方気になる。
SE:携帯の音
広見「もしもし?親父さん、どうした?な
に?よく聞こえないけど。落ち着けよ」
SE;病室のドアを開ける音
弘道「遅いぞ! おい!」
広見「どうしたんだよ。何があったんだ」
N:海洋散骨の最大手オーシャンセメタリー
破産。無理な投資が原因か?経営者、行方不明状態。
弘道「破産した!」
広見「えっ? この間の話のやつか?」
弘道「お前に、面倒をかけるわけにはいかな
いからな」
広見「生命保険かと思って、家捜ししたんだ。
そしたら見つけたよ。申込書とラブレター」
弘道「ばかやろう!」
母親(M)お父さんに手紙を書くのは照れく
さいわ。お願いが一つ。私が死んだら、ハ
ワイの海に骨を蒔いて欲しいの。それが最
後のお願い。本当は、一緒にハワイに行き
たかった。そのために、生命保険の証書も
一緒においていきます。それと、広見だけ
ど、彼は、心根は優しい子です。だって
あなたの子供ですよ。何があっても信じ
てあげて私は、あなたといれて、幸せだっ
た。
弘道「なんだ、その目は」
広見「読んだよ。散骨なんて、おかしいと思
ったんだよ。俺さあ、本気出すよ。」
弘道「ちょっと、遅いかもな」
SE:雷の音
N:弘道さん、散骨会社の倒産で、急激に衰
え始めみるみる間に他界。
広見「親父さん、最後まで、俺の本気を見せ
られなかったなあ。母さん、いくよ」
N:成田発、ハワイ行きの搭乗アナウンス。
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