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2023-001【神立の雨に包まれて】ラジオドラマ脚本0107

堀 右京(ホリウキョウ)47歳ラジオDJ  

屋 照朱(オクテラス)36歳 屋上さんの娘


照朱(M)今日、病院で医者か父さんの延命についての説明をされた。
照朱「これ以上の延命処置は父さんも望まないと思います。はい、大丈夫です」

   病室にラジオが低く流れる。

照朱「ラジオ好きな父さんがいつ目覚めてもいいようにラジオをつけてる…」

   ラジオからコロナ禍で中止されていた土曜日の公開放送の再開のお知らせが
   流れる。

照朱「来週から屋上で公開放送再開するんだって、父さん?聞こえないか」
   
   LINEのバイブ音が響く病室。

照朱「えっ、私?あっ、父さんのスマフォだ、見てもいいよね、ごめん」

   人工呼吸器の音が流れる。

照朱「番組から公開放送、当選のお知らせだ。父さん?いつ、出してたの?」

   人工呼吸器の音が流れる。

照朱「このスタジオって、銀座の屋上?これって、父さんが一番心配してた現場じ
   ゃない?確か?」

   人工呼吸器の音が流れる。

照朱「大好きな公開放送に私が代わりに行くけどいいよね、今日はもう帰るね、ま
   た、土曜日の朝にくるね」

   人工呼吸器の音が響く。

照朱「そうだ、父さんのラジオネーム、スマフォで見つけたよ。仕事好きな父さん
   らしい」

   病室のラジオから「銀座より青春グラフティ公開放送復活!ご参加下さい」
   が流れる

照朱「行ってくるね。あっ、缶バッジ忘れるとこだった」

   ラジオから、番組ジングルが流れる。

右京「僕の声、先週までと違うと思う人?そう、3年ぶりに銀座に戻って、来た
   ぞ!」

   リスナーの大きな拍手

右京「コロナもまた若干増加傾向でちょっと、こんな僕でも不安だったけど、
   帰ってきたよ〜」

【M】テーマソングが流れる。

   カフを下げるのを見届けるようにリスナーのおかえりの声が聞こえる。

右京「ありがとう!なんだ、みんな元気そうじゃん。缶バッジつけてるじゃん、誰
   かかして〜」

   リスナーの笑い声

右京「常連さん大集合だ、あれ?」

   電車の車内でラジコを聴く照朱。

照朱「ラジオ越しからも伝わる熱気。リスナーさん達も元気みたいだよ、父さん」

   ディレクターが始まりますの声。

右京「3年ぶりの銀座かあ。屋上の解放感とリスナーさんの熱量がさあ、違うな、
   ドキドキしちゃうよ!」

   修学旅行生が放送を覗き見しながら通りすぎる。

右京「君たちは、どこから来たの?えっ」

右京(M)これこれ、このライブ感がこの

   番組のキモなんだよ。

右京「復帰一発目は、やっぱりさあ、この曲でしょ」

【M】

   電車内でラジコを聴く照朱。

照朱「あれ?この曲、父さんが元気な頃にこれ知ってるか?いい曲だぞって教
   わったやつだ」

   ディレクターの始まりますの声。

右京「さあ、届いてるメール、出来る限り読んじゃうから、これからでも、メー
   ル、送って!」

   電車内でラジコを聴く照朱。

照朱「父さんの送れなかったメール届いてるかな」

   メッセージのプリントアウトの音が響く、副調室。

照朱(M)この読まれるかどうかのドキドキ感がラジオの醍醐味なの?お父さん?

   電車内の乗客の喋り声。

右京「銀座復活の一発目、みんな、こんなにメールくれてありがとう、全部目は通
   してるから!、まずは、これから」

   BGMが低く流れる。

右京「リスナーさんも、この3年間で、いろんな変化があったことを改めて感じた
   なあ。僕が出来ることはメールを読むことしかできないけど…、この僕の声
   で元気を分けられればと思うんだ」

【M】リスナーのリクエスト曲が流れる。

   銀座駅に到着のアナウンス。

照朱「あれ?この曲」

   ディレクターのキューが聞こえる。

右京「屋上さんからのリクエスト曲、吉田拓郎でああ青春。屋上さん?」

   アシスタントが「常連の屋上さん?いないですね」と話ごえ
   階段を駆け上る女

照朱「やっぱり、そうだったんだ」

   リクエスト曲、終わる。

右京「ちょっと、ここで会場のリスナーさんの声を、いた、カキコさん?」

   息を切らせてスタジオについた照朱

照朱「父さん、着いたよ。待ちに待った番組復活の日だよ」

   会場内がざわつく。

右京「カキコさん、屋上さん、一緒じゃないの?」
照朱「あっ、お父さんのラジオネームだ」
右京「あれ?誰か手を挙げてる?」

   女に駆け寄るアシスタント

照朱「あっ、あっ…」
右京「ゆっくりでいいから、お名前は?」
照朱「屋上の娘です」
右京「屋上さんの?」
照朱「はい、娘ですみません」

【M】曲が流れる。
右京「そんな…」
照朱「父さんが、入院してから、屋上でタバコ吸いながら、この番組を聴いていた
   みたいです、よく怒られてたみたいです」
右京「屋上さんらしい」
照朱「屋上の防水屋だったんです」
右京「屋上の点検は晴れの日にやるって教えてもらったな、雨はダメなんだって」照朱「肺に腫瘍が見つかった時にはもう」
右京「缶バッジ、屋上さんが作って番組のノベルティにってくれたんだよ」
照朱「ほんとですか?」

照朱(M)恥ずかしがり屋だから何も教えてくれないんだ。

右京「絶対、来ると思ってたけど…」
照朱「この屋上も父親が作ったそうです」
右京「そうなの?」
照朱「ここにくると、必ず、点検しながら聴いてたみたいです」
右京「プロだね」
照朱「バカ真面目なんです。自分のことはいつも後回し」
右京「あっ」
照朱「いきなり雨だ」

   人工呼吸器の警報音

【完了】

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